『ジョン王』見てきました(ネタバレなし)
彩の国シェイクスピア・シリーズ『ジョン王』を見てきました。
こちらのシリーズは、彩の国さいたま芸術劇場を本拠地にシェイクスピアの全作品上演を目指すプロジェクトで、吉田鋼太郎さんが2代目芸術監督を務めています。
私は初代芸術監督の蜷川幸雄さんとの相性が良くなかったので、これまで見たことがありませんでしたが、ジョン王を横田栄司さん、私生児リチャードを小栗旬さんが演じると聞いてチケットゲット。
残念ながら横田さんは休演され、代わりに吉原光夫さんがジョン王を演じられました。
そもそもジョン王は、その後同じ名前の王がいないことからもわかるように、英国史上最も人気のない王様(多分)。
そのためシェイクスピアの史劇の中でも、『ジョン王』は極端に上演されることが少ない演目となっています(ビクトリア朝時代には人気演目だったらしい)。
この機会に見なければ、日本ではもう見る機会がないかも?! と、シェイクスピアオタクの血が騒いだのです。
【ストーリー】
イングランド王ジョン(吉原光夫)の下へ、先王リチャード1世の私生児だと名乗る口の達者な男が現れる。ジョンの母エリナー皇太后はその私生児・フィリップ・ザ・バスタード(小栗 旬)を親族と認め従えることを決める。
そこへフランス王フィリップ2世(吉田鋼太郎)からの使者がやってくる。ジョンは、正当な王位継承者である幼きアーサーに代わってイングランド王となっていたが、「王位をアーサーに譲り、領地を引き渡すよう」に要求しにきたのだ。それを拒んだジョン王は、私生児を従えてフランスと戦うために挙兵する。
まんまと王族の仲間入りをした私生児は、権力者たちの愚かなふるまいを鼻で笑いながらも、戦争へと巻き込まれていく。
アーサーの存在が疎ましいジョン王は、腹心の臣下であるヒューバートに、恐ろしく非情な命を下す。この決断が、ジョン王と私生児の運命を大きく狂わせるのだった。
権力者の思惑に振り回され、世界は混迷を極めていく―――
いろいろな仕掛けのある舞台なので、ネタバレしないように感想を述べますね。
私は鵜山仁さん演出のシェイクスピア舞台を見ることが多いですが、鵜山舞台が一つ一つの台詞や動きすべてを演出で統制して、劇の構成要素として緻密に組み上げているのに対し、自身が役者さんである吉田さんの演出は、かなり役者さんの自由を尊重している気がしました。
そのため、似たトーンの芸と芸がぶつかり合うと、単調になってしまうシーンもある半面、役者さんの思わぬ底力を感じさせてくれるシーンもあり、「なるほどなあ」と感心しました。
昔見た蜷川さんの『リチャード三世』を彷彿させる仕掛けや、やはり蜷川さんの特徴だった「和」を感じさせる演出が随所にあり、蜷川演出の継承者という面も強く感じました。
シェイクスピアの台詞に何かを付け足す代わりに、歌を使う演出も面白かったですが、吉原光夫さんの歌がうますぎて!
ほかの役者さんたちはほぼ立ちっぱなしで歌っていたのに、さすがミュージカル出身、細かいお芝居もついていました。
セリフ回しも素晴らしく、音楽的だからなのか内容も感情もしっかりと伝わってきて、個人的には今回、最も好きな演技でした。
ちなみに役者さんはすべて男性なので、皇太后エリナー、アーサーの母コンスタンス、ジョン王の姪ブランシェなどの主要な女性キャラは男性の役者さんたちが演じています。
コンスタンスの迫力がただ者じゃなかったな……。
子役さんもすごく達者でした。
そして、小栗旬さん。
アウトサイダー的立ち位置から歴史を動かす人物へと成り上がっていく高揚感や緊張感など、少し北条義時を思わせるキャラクターなのが面白かったです。
もともと蜷川さんの舞台で鍛えられた方なので、発声も所作もしっかり舞台役者でした。
ただ、映像のキャリアが長いためか、表情の変化が豊かな分、声の変化が少しフラットだった気がします。
舞台は声が八割と言ってもいいフィールドなので、より音楽的な高低をつけて、感情を表現してくださるとうれしいかな~。
めったに見られない『ジョン王』ですが、敵と味方がクルクルと変わるスリリングな展開がまるで現代の政治を見ているようで、これはもっと上演されてもいいお芝居では、と思いました。
あんな昔から人は勝手で、平気で裏切って、懲りずに企んで、何とか生き延びていたんですね~。
彩の国シェイクスピア・シリーズは本作で終了だそうですが、マイナー演目を今後も見る機会があることを祈っています。
やっぱりシェイクスピアはいいなあ。