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さびしんぼ ( 3 / 4 )

 



「……ったく、どこの世界に病人のおかゆを横取りする見舞客がいるんだ」

「だって、譲くんがたくさん作ったから大丈夫だって」

「ええ、どんどん食べてください、先輩。兄さんは食欲ないみたいだし」

「ば〜か、一度食い出せばいくらでも入るんだよ」

並んでおかゆをパクパク食べる二人を、譲は目を細めて眺めていた。

こういう光景も、ありそうで案外なかった気がする。




「はい、白湯。薬飲むの忘れるなよ、兄さん」

「おう! 今日は徹底してお前らの邪魔することにしたからな。飲んだらまたここで寝る」

「どうぞ、どうぞ」

枕の上の保冷剤がまだ冷たいのを確認した後、譲はソファの上の寝床を整えた。

「譲くん、私、このテーブルでノート整理してもいい?」

「ええ、俺はそろそろ夕飯の支度を始めますから」

「なんだ、お前らは。色気がねえな」

「今日の授業のノート、将臣くんにもわかるように詳しく書くから、明日コピーしてね」

「兄さん、テレビ消そうか? 眠れないだろう?」

「……………」

将臣はひとつ大きくため息をつくと、

「いや! 俺はどんなにうるさくても眠れるから、そんなの必要ない!」

と言い放ち、ズボッと布団に潜り込んだ。

望美と譲は顔を見合わせ、くすくす笑う。



* * *



薬を飲んだとはいえ、体温はまだまだ高かった。

頭がぼうっとして、全身がだるい。

熱い息を吐き出すと、将臣は寝返りをうった。

不意に、以前嗅いだ覚えのある香が漂ってくる。

床が微かに軋み、人の気配がすぐそばに感じられた。




「……将臣殿」

「ん……」

「熱は、少しは下がりましたか……?」

汗ばんだ額にひんやりとした手が置かれる。

うっすらと目を開けると、上品な笑みを浮かべた初老の女性が覗き込んでいた。

「……あ……!?……」

「どうかそのままで。毎日一門のために粉骨砕身、駆け回っておいでなのです。
疲れが一気に出たのでしょう」

白い頭巾を被った清盛の妻、二位ノ尼はそう言って微笑んだ。










 
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