暁天の星 ( 2 / 3 )
「みんな最低1つは書いてね! 竹簡1枚に1つずつ!」
千尋が楽しそうに声をかける。
楼台に戻ってくる最中に誘ったのか、室内の人数はさらに増えていた。
全員の手元にあるのは、糸を抜いてバラバラにした竹簡。
そこにサラサラと文字を綴る者もいれば、頭を抱え込んで悩んでいる者もいる。
「それで、千尋は何にしますか?」
代筆を引き受けた風早が、千尋に尋ねる。
「え? あ、そうか。まさか『肩たたき』…ってわけにはいかないし。
う〜ん、何がいいかな?」
眉間に皺を寄せて考え込んだ。
「俺は千尋が小学生のときにくれた、『1日分の家事』券がうれしかったですけどね」
「あのときは友達の誕生日がいっぺんに重なっちゃって、風早のプレゼントを買えなかったから。今さらだけど、本当にごめんね」
「いいえ。一生懸命家事をこなす姿がかわいらしかったですよ」
二人の会話をふてくされながら聞いていた那岐は、隣にいる人物にガンを飛ばした。
「……まったく。あんたがかかわるとロクなことにならないな」
「おや、ひどい濡れ衣ですね。私は何もしていませんよ。
『忍人が好きなときに使える《券》を作るから、みんな自分ができることを書く』
……我が君の斬新なご発想に、ただただ驚嘆するばかりです」
文字を綴っている竹簡から、目を離さずに柊が答える。
「何が斬新だよ! こんなのあっちの世界じゃ子どもがその場しのぎに使う手だ」
「だとしたら、それをこの機会に思い出す姫はやはり素晴らしいお方かと」
「……ちょっと待って、柊。何だよそれ」
ようやく柊が書いている文字に気づき、那岐が尋ねた。
「『橿原の昔ばなし』券です。忍人が入門したころのあんな話、こんな話を、私が忍人の前で我が君にたっぷりお聞かせするという……」
「間違いなく最初に叩き割られるね」
「布都彦、今すぐできることじゃなくていいの。
戦が終わって、何年かたってから実現できることでも構わないのよ」
何も思いつけず、盛大にうなっている布都彦を見つけて千尋が言った。
「……何年か、ですか。しかしそれでは」
「布都彦は橿原宮を取り戻した後、忍人さんと何をしたい?」
「…!」
一瞬目を見開いた後、布都彦はすうっと思索の海に沈んでいった。
千尋に見守られながら、やがてゆっくりと口を開く。
「その……葛城将軍は笛が巧みだと伺ったことがあります。
私の琴といつか合わせていただければと」
「忍人さんが笛を?! 知らなかった〜! うん、じゃあ『一緒に合奏する』券だね」
「そ、そのような物でよろしいのでしょうか」
「もちろん! きっと喜ぶよ」
「豆茶飲み放題」券
「リブの1日貸し出し」券
「大空の散歩(ただしカリガネ担当)」券
「昼寝の手ほどき」券
……
各人が思い思いに綴った竹簡が千尋の手元に戻ってくる。
風早に書いてもらった最後の1枚を加えると、千尋はすべてをぎゅっと胸に抱き締めた。
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