永遠の誓い  ( 1 / 4 )

 

「それはおまえ、拷問だろう」

「そんな言い方、よせよ」

望美が京邸の簀子縁を歩いていると、角の向こうから二人の話し声が聞こえた。

ヒノエと譲が話しているらしい。

間近に迫った望美と譲の祝言の餞にと、ヒノエは熊野の豊かな海山の幸と宋渡りの財宝をどっさり携えてやってきたのだ。

声をかけようとした望美は、ヒノエの言葉に凍り付いた。

「毎晩同衾してて何もしないって、それぐらいなら別の部屋に寝るほうがマシだろう?」




「だから、そういうのじゃないんだ!」

譲が、苛立ちを交えた声で答える。

「先輩は半年も白龍の元にいて、今も何かの拍子に戻されてしまうんじゃないかっていう不安を抱えている。俺がそばにいれば、安心して眠ってくれるから」

「おまえはどうなんだよ」

「俺だって……先輩がそばにいるとわかって安心できる」

「抱くことができなくても?」

「ヒノエ!」

やれやれというようにヒノエがため息をつく。

「俺にはわからないね。愛する女を毎晩腕の中に抱いているのに、手を出さないなんて、おまえ、なんか病気でもあるのか?」

「いい加減にしろ!」

「いい加減にするのはお前のほうだろう」

突然、ヒノエの声がとがった。

「親や家の事情で、会ったこともない相手と祝言を挙げるっていうならともかく、好き合って、もうひと月も同衾してて、それ以上ないっていうのは異常だぜ。おまえ、いったい何を怖がってるんだ?」

「こ……怖がってなんか……」

口ごもる譲の言葉を背に、望美はその場を離れた。



* * *



「……起きていたんですか?」

夜、寝所にそっと入ってきた譲は、紙燭のそばに望美が座っているのを見て驚いた。

「俺を待っている必要なんてありませんよ。先に寝んで…」

「譲くん、私、もう大丈夫だよ」

顔を上げて、真剣な目で望美が言う。

「何が……ですか?」

わけがわからずに、譲は聞き返した。

「戻ってきた当初は、めまいがしたり、疲れやすかったり、長い距離が歩けなかったりしたけど、もう普通に生活できるし、体力もかなり回復したと思う」

「はい。本当によかった」

「だから……もう大丈夫……」

そこまで言うと、望美は真っ赤になって黙り込んでしまった。

「……せん……ぱい……?」

心配になった譲は、望美の隣に座る。

「……どうしたんですか」




望美はうつむいたまま、しばらく無言だった。

膝に置いた手が微かに震えている。

「……譲くんは……」

「はい?」

この上なく優しい声に励まされて、次の言葉を口に出す。

「わ……私をお嫁さんにしてくれるんだよね」

「……はい。先輩が嫌じゃなければ」

「嫌じゃない、うれしいって何度も言ってるのに!」

望美が顔を上げて反論すると、譲がにっこり笑った。

「ありがとうございます」

一瞬、望美が赤い顔のままで拗ねたような表情をする。

そしてうつむくと、譲の胸にぽすんと顔を埋めた。

「……先輩、本当に、どうしたんですか……?」

髪を撫でながら、譲が尋ねる。




「……ていいかわからない……」

「はい?」

「こういうとき、どうしていいかわからない……」

「……こういうとき?」

突然すくっと立ち上がると、紙燭の明かりを吹き消し、またストンと座った。

「ね、寝よう」

「は、はい」

室内が真っ暗になったので、望美の表情を読むこともできず、譲は素直にうなずいた。

何となく、もう一度明かりをつけづらい雰囲気なので、手探りで身支度する。

自分の背後でも、衣擦れの音がしたような気がしたが、暗闇の中で確かめる術はなかった。