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視線の先 ( 4 / 6 )

 

ぱしゃっと軽い水音が聞こえる。そちらに目をやると、鷹通さんが花に水をまいていた。懐かしい、ずっと会いたくてたまらなかった姿。

ドクンと胸が鳴るのがわかった。

鷹通さんがとっさに首元の宝珠に手をやる。心の動きが、宝珠を通して伝わってしまったらしい。

不審げに宝珠に触れていた彼が、ようやく私の姿に気づいた。

「え……神子殿…?」

もう一度、胸がドクンと音を立てる。

私は自分の気持ちを確信した。

この人と離れるなんて耐えられない。

「…鷹通さん」

自分の声がひどくかすれているのがわかった。

目の前の風景がゆがむ。

「神子殿!? どうなさったのです?!」

血相を変えた鷹通さんが駆け寄って来た。



「何かありましたか? どこかお怪我でも?!」

流れる涙を止める術もなく、私は首を横に振り続けた。

「神子殿、どうか…!」

困り果てたというように私を引き寄せ、手を添えて頭の動きを止める。

それでも止まらない涙を長い指でぬぐうと、

「どうか……」

と、ふわりと抱きしめた。

温かい抱擁。

「あなたの涙を止める方法をお教えください。そんなあなたを見ているのは辛いのです」

私は、鷹通さんの腕の中にいることが信じられなくて、しばらく呆然としていた。

やがて目を閉じ、しゃくりあげながら胸に顔を埋める。

鷹通さんは、子供をあやすように静かに私の髪を撫でた。



「……落ち着かれましたか?」

どのくらいそうしていたのだろう。穏やかな声が問いかけて来た。

私の無言を肯定と受け取ったのか、少し身体を離して続ける。

「とっさのこととはいえ、ご無礼をいたしました」

「…!」

そのまま彼が離れてしまうのが嫌で、胸にしがみつく。

「神子殿」

困惑した声の後、ひとつ溜め息。

「せめて屋敷の中に……もう日も暮れますから」

確かに、周りの景色は闇に沈み始めている。

渡る風も冷たくなってきた。

胸がいっぱいで口がきけなくなった私は、それでもしがみついていることしかできなかった。

そんな様子をしばらく見つめていた鷹通さんは、

「…仕方ありませんね。無礼ついでです」

と言うやいなや、いきなり私を抱き上げた。

「えっ!?」

「神子殿に風邪をひかせるわけには参りません。しばらく我慢してください」

驚く私に構わず、そのままずんずんと屋敷の中に入って行ってしまう。

手足をバタバタさせてもまったく動じない。

(鷹通さんって結構、力あったんだ…)

混乱のさなか、私が考えたのはそんなことだった。

 
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