深海の光  ( 1 / 2 )

 

射るようなまなざしが、最初は怖かった。

私の弱さ、いたらなさをすべて見抜いて糾弾する瞳を、正面から見返すだけで身体が震えた。

できれば目を逸らしたい、その視界から姿を消したい。

何度も強くそう願った。

なのに、いつからだろう。

あなたの視線を、「護り」と感じるようになったのは。




荒魂を相手に苦戦しているとき、振り下ろされた避けようのない刃をあなたは必ず受け止めてくれた。

「気を抜くな」「呼吸を合わせろ」と叱咤しながら、鮮やかに舞うように眼前の敵を倒していく。

戦闘後にお小言を聞きながら、彼が私から片時も目を離していなかったことを知って、温かい気持ちになる。




「何がおかしい」

「え?」

「君は俺の話を聞きながら笑っていたぞ」

「あ、その、それは……」

「……?」

「そ、そんなにちゃんと見ていてくれたんだなあって……」

「? 当たり前だ。君がやられては戦いの意味がない」

「!! ………そう……ですよね」

「二ノ姫…?」




急に落ち込んだ私を見て、忍人さんが少し慌てる。

そういえば、私の感情を彼が気にするようになったのも大きな変化だ。

最初のころは、私が青くなろうが赤くなろうが、言いたいことだけ言って背中を向けていた。

その冷たさには、ずいぶん傷ついたものだ。




けれど最近は、自分の言葉が私にちゃんと届いたか確認するようになった。

じーっと見つめられて、私のほうはつい赤くなってしまうのだが。




「わかりました。今度は気をつけます」

「そうしてくれ」




彼がすっと身を翻した途端、言いようのない淋しさを覚える。

もう、あの深い色の瞳に見つめてもらえないのだと。

以前はあんなにも恐れた視線だというのに。




「二ノ姫」

うつむいていた私は、ビクッと顔を上げた。

忍人さんが、少し離れた場所でこちらを見つめている。

「は、はい?」

「……君は…誤解しているかもしれないが」

一瞬躊躇してから、彼は再び近づいてきた。

「誤解?」

「ああ。俺は毎回、君の足りない部分を指摘しているが、別に非難しているわけではない。思っていた以上に……君はよくやっている」

そう言われて、私はポカンと口を開けた。




「……いきなり言われても信じられないか」

「…そうじゃなくて」

「?」

「…わかっています、もうずっと前から。忍人さんが、私のためを思っていろいろ言ってくれていることは」

そう、微笑みながら答える。

「とっても感謝しているんですよ、私」

「………………」

「忍人さん?」




彼の瞳には、暗い影が落ちたままだ。

「……だが…」

やりきれないといった表情で口を開く。

「はい?」

「君はいつも辛そうだ。俺と話した後は……」

「!!」

私は両手で口をふさぎ、一気にカーッと赤くなった。

「…二ノ姫?」