真昼の決闘 ( 2 / 2 )
「遅くなってごめん! 冷蔵庫の中にバースデーケーキ入れておいたのわかった……?」
部活から戻った譲が、リビングのドアを開けると、そこには2つの死にかけた身体が転がっていた。
「先輩! 兄さん? ど、どうしたんだ?!」
「ゆ、譲くん、お帰り…」
「ち、ちょっとした食休みだ…」
よろよろとソファから起き上がる二人を怪訝そうに見ていた譲は、テーブルの上の箱に気づいた。
「あれ? これ、もしかして先輩が?」
「う、うん。将臣くんのバースデイプレゼントに」
「よかったな、兄さん。俺も一つくらいお相伴にあずかりたかったけど」
「いや! 譲、お前に食わせるわけにはいかねえよ!」
「まったく、欲張りなんだから…」
弟の非情な言葉に心で涙を流しながら
「今日は俺の誕生日だ! 俺の好きにさせろっ!!」
と、将臣は言い切った。
心なしか、望美が尊敬の目で見つめているような気がする。
「じゃあ、もうお腹いっぱいかもしれないけど、俺の作った誕生日ケーキ、少しだけ味見するか?」
「するするする!!!」
「望美、お前は化け物かっ!!」
「…兄さんはいらない?」
「……………ま、…小さめなら、な」
危険物をしこたま入れた胃をさすりながら、将臣はもう一度ソファに沈み込んだ。
譲は、望美と楽しそうにお茶の用意をしている。
(まったく、兄貴は損だぜ)
思わず苦笑が顔に浮かぶ。
(結局こいつらには叶わないんだからな……)
しばらくして、鮮やかな蝶紋でデコレートされた誕生日ケーキがテーブルに運ばれてきた。
「譲、これ……」
「有川姓は平家の血筋なんだろう? だったらこういうのもアリかと思って」
「すご~い、きれいだね!」
望美がうっとりと眺める。
「南国フルーツをたっぷり使ったから、兄さんの大好きな南の島の雰囲気も出てると思うよ」
「アイスティーにも、たくさんフルーツ浮かべたからね!」
傘を立てたグラスを望美が差し出す。
「譲、望美、サンキューな」
「「どういたしまして!」」
ハッピーバースデイの歌の後、将臣が一気にキャンドルを吹き消した。
「何かお願いした?」
譲がケーキを切り分けている間に、望美がそっと尋ねる。
「ああ。来年はお前が手作り菓子を持ってこないようにってな」
「ひど~い!!」
「じゃあ、兄さん、あらためて誕生日おめでとう!!」
3つのグラスがぶつかりあって、カチンと涼しげな音をたてた。
………が、その晩、やはり望美と将臣は、胃薬なしでは寝られなかったという……(もちろん、ケーキのせいではありません)。
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