「そういえば、メールはあのアドレスに送っていてもいいんですか?
お父様かお母様の携帯を借りているんじゃ?」
リビングに戻り、今度は隣同士に座って二人は話していた。
テーブルの上では、いれなおした紅茶が湯気をたてている。
「いえ、あれは私名義のものです。
母が解約しないでずっと持っていたものを……さすがに古いので機種変更しました。
ショップではたいそう驚かれましたが」
その光景を思い浮かべて、花梨はつぶやく。
「……すごく物持ちがいいと思われたのかな……」
「海外にいたのでと説明しましたけれどね」
幸鷹はクスリと笑った。
「そっか」と感心しながら、花梨は幸鷹を見つめる。
「きっと幸鷹さんは、8年のギャップなんてすぐに埋めちゃいますね。
頭がいいし、努力家だし、どんなことでも乗り越えていけそう」
「そう祈っていてください」
花梨のストレートなほめ言葉に幸鷹は苦笑した。
「一日も早く、あなたのご両親にお会いできるようになりたいですからね」
「……私の……両親?」
花梨がぽかんとすると、
「ええ。とりあえずは、あなたと交際することの許可をいただきに。
そして、行く行くは婚約のお願いに」
と、サラリと答える。
「……ええっ~~~~~~~~?!」
「何か支障が?」
澄ました顔で言われて、花梨は真っ赤になった。
「い、いまどき付き合うのに親にあいさつする人なんていませんよ!」
「高校生同士ならそうでしょうが、私は年齢が離れていますからね。
ご両親を心配させたくないのです」
「で、でも、婚約って……」
「あなたとの交際は恋愛ゲームではありません。
私は将来の結婚を前提としたものだと理解していますが」
「…………」
「花梨さん?」
「…………全然変わってない……」
「はい?」
「……そういうのを、理が勝っているって言うんじゃないですか?」
赤い顔で、花梨がぽつりとつぶやいた。
「!」
幸鷹の顔色が変わる。
「ご、ごめんなさい」
「花梨さん」
「あの、別に嫌なわけじゃ」
と、言い終わる前に、唇をふさがれていた。
「??!!☆☆!」
たっぷり熱烈なキスをした後、幸鷹は
「翡翠の話をした罰です」
と宣言する。
いつの間にか呼び捨てだった。
* * *
その後、幸鷹の母や帰宅した父と談笑しながら、花梨は時折幸鷹の横顔を盗み見た。
知的な柔らかい微笑み、穏やかな声。
(でも私は、まだ幸鷹さんのほんの一部しか知らないのかもしれない)
今日一日の中で、幸鷹が見せたさまざまな表情、情熱的な告白。
どれも京では見たことがないものばかりだった。
「花梨さん?」
視線に気づいた幸鷹が、問いかける。
「お茶、とってもおいしいです」
そう笑って答えると、花梨はカップを口に運んだ。
いろんな幸鷹さんを、たくさんたくさん発見したい。
そのそばに、いつも一緒にいたい。
遙かなる時空を超えて巡りあえた一番大切な人を、……愛し続けたい。
隣で極上の頬笑みを浮かべる花梨を、幸鷹も優しく見つめていた。
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