治部少丞の悩み ( 1 / 2 )
「わあ、幸鷹さんは帰国子女なんですね」
あかねが目を丸くして言う。
ここは南斗宮の庭園。
八葉全員の救出を終え、天界を歩く日々が続いている。
たまたま庭園で一緒になった幸鷹と譲、あかねは、日ごろはゆっくりできない互いのプライベートの話をしていた。
「はい。夏期休暇を利用して、1年に1度は日本に帰国していましたが」
「ヨーロッパと日本で一番違うところってどこですか?」
譲の質問に、幸鷹はしばらく考え込んだ。
「…そうですね。日本のような24時間年中無休という発想がないところでしょうか。店舗やいろいろな施設は、基本的に日曜は休みですし、閉店時間も早いですね」
「セブンイレブン、ないんだ…」
「俺たち、コンビニがなくなっても暮らせるかな」
ぷっとあかねが吹き出す。
「譲くん、京にだってコンビニないでしょう?」
「あ、そうか。確かに」
「日本があれだけの経済成長を遂げたのは、24時間稼働するという勤勉さゆえでしょうが、たっぷりとした夏期休暇と、ゆったりとした生活リズムを楽しんでいるヨーロッパの人々のほうが、見方によってはずっと豊かでしょうね」
「…………」
「どうした? 鷹通」
少し離れてあかねたちを見ていた鷹通は、不意に声を掛けられてあわてて振り向いた。
「天真殿…! 気づかずに失礼いたしました」
「いや、俺は今来たところだぜ。なんだ、あかね、ずいぶん盛り上がってるみたいだな」
鷹通の肩越しに、あかねを見つけた天真が言う。
「幸鷹殿も譲殿も、神子殿と同じ世界から来られた方ですから」
「まあ、いつもいつも俺や詩紋が相手じゃな。たまには違うメンツと話したくなるだろ」
「……そうですね」
「…?」
「あ、天真く〜ん! 鷹通さ〜ん!」
あかねが手を振って呼びかける。
「ほら、龍神の神子様のお呼びだぜ」
「天真殿」
天真に促され、鷹通はあかねの元に近づいていった。
「なんだ、あかね。眼鏡男子天国だな」
「もう〜! そういう言い方しないでよ、天真くん!」
「お邪魔いたします、譲殿、幸鷹殿」
鷹通の会釈に、二人の天の白虎も丁寧に応える。
同じ気をもつ彼らのそばは、やはり居心地が良かった。
「天真はあかねと同い年なのか?」
二人が話すのを見ていた譲が尋ねる。
「歳は俺のほうが1つ上だな。ダブったんで、あかねと同じ学年になっちまったんだ」
「そう…なんだ。ごめん、悪いこと聞いたかな」
「別にかまわないぜ」
「天真くんは理数系とかすごくできるんだよ! 蘭が…、妹さんが行方不明にならなければ、ちゃんと進級できてたの」
あかねが必死に言うのを聞いて、天真が吹き出した。
「おまえ、それ、逆効果。俺が馬鹿なのをかばってるみたいに見えるぜ」
「ええ?! そうかなあ?」
くしゃっと髪を撫でられ、あかねは膨れた。
「大丈夫ですよ、あかね殿。天真殿が聡明なのは、行動を共にしていればわかります」
幸鷹がフォローするように言うと、現代組が全員キッと彼を見た。
「…?! あの、私が何か……?」
視線の意味がわからず、幸鷹が焦る。
はあ、と溜息をつくと、天真が口火を切った。
「…15歳で大学院生になった奴に言われたくないぜ」
「いったいいくつ飛び級したんですか?」
「私、物理、本当に苦手だから想像つかない……」
「…………申し訳ありません……」
なぜか謝る幸鷹だった。
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