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はじまりのとき ( 2 / 2 )

 



四道将軍の副将として、狗奴の部隊の前に立ったその青年は、まだ15、16歳に見えた。

濃紺の装束に身を固め、腰には二本の剣を佩いている。

それが単なるお飾りでないのは、隙のない身のこなしから容易に察せられた。




だが、そういったことよりも疾風を心をとらえたのは、彼の顔立ちだ。

背が伸び、髪型が変わり、顔つきも大人びたものの、まっすぐな眼差しと深い瞳の色、決然と結んだ唇はあの日のまま。

口数の少なさも、憮然とした表情も、4年前とまったく変わっていなかった。

(…見間違うはずがない……)




自分を見つめ続ける兵士に気づいた青年が、問いを投げかける。

「…俺の顔に何かついているか」

「……いえ」と答えた疾風は、それでも視線を外さなかった。

一瞬、青年の目が疾風の脚をとらえる。

しっかりと大地を踏みしめているのを確認すると、そのまま全員を見渡した。




「俺は今後、諸君らを直接率いることになる。
今、ざっと装備を確認したが、武具や刀が十分整っていない者が散見された。
俺の配下が、装備不足が原因で負けることなど許さない。
解散後、ただちに各部隊長は自分の部下の装備を点検し、必要な武具を俺に申告するように」




ざわっと、声が上がった。

普段は寡黙な兵士たちも、語られた言葉があまりに意外だったため驚きを隠せない。




「その、申告できる武具の上限は……」

疾風の横にいた年配の部隊長が、おずおずと尋ねた。

「不足が完全に補われるまでだ。
各部隊長は、次の閲兵時に全員が十分な装備を身に付けるよう努めろ」

それだけ言うと、青年は解散を告げ、きびすを返した。




残された兵士たちは顔を見合わせ、口々に驚きを語り合う。

「どういうことだ。これまでロクな補給も受けられなかったのに」

「腕力があるのだから、剣など不要だろうと何度言われたことか」

「履物や、矢尻を支給してくれるのか?」

持ち前の我慢強さと、優れた身体能力が仇となり、狗奴への武器の支給や食糧の補給は後回しにされがちだった。

最も過酷な戦場に送られながら、正規軍の半分も武器や装備を持たない。

それが、狗奴の兵士たちの日常だったのだ。




「疾風、あの新しい副将は信用できるのか?」

同僚の部隊長が尋ねた。

突然の幸運に戸惑っているのが、声からわかる。

青年の去った方角を見つめていた疾風は、視線を逸らさないまま答えた。

「できる。これまでで最も信用できる将となるだろう。
あの副将、葛城忍人という青年は……」

すでに、視界から濃紺の装束は消えていた。




傍らに常に狗奴を従え、絶対の忠誠を捧げられた忍人が、虎狼将軍と呼ばれるのはもう少し後のこととなる。




 

 
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