10月5日の夜に

 



鎌倉。景時邸の簀子縁にて




「先輩! まだ起きていたんですか?」

「あ、譲くん。後片付け終わったの?」

「ええ。今日は敦盛やヒノエや、先生まで手伝ってくれたので早く済みました」

「そっか。やっぱり私も手伝えばよかったな」

「先輩は宴の主役なんですから、そうはいきませんよ」

「もう! みんなそう言うんだから」

「あ、もしかして、後片付けが気になって起きていたんですか?」

「それだけじゃないけど……。ね、譲くん、座らない?」

「あ、はい。すみません。じゃあ」

「……まさか、この世界でも誕生日を祝ってもらえるなんて思わなかったよ」

「何言ってるんですか。俺の誕生日だって祝ってくれたじゃないですか」

「今日に比べたら、私の用意したのなんて」

「先輩、こういうのって、気持ちの問題でしょ?」

「それはそうだけど」

「じゃあ、素直に受け取ってください。みんな先輩の誕生日を祝えて喜んでいましたよ」

「……わかった。ありがとうございます」

「どういたしまして。俺からみんなに伝えますね」

「うん。明日の朝、私からももう一度お礼を言うよ」

「はい」




「!」

「先輩? ……え? な、何ですか? 俺の顔に何か?」

「ごめんね、急に触って。でも、目、赤いなって思って」

「!」

「まだ眠れないの? ……あの夢を見る?」

「それは……」

「……熊野のときみたいに、私がそばにいれば少しは眠れる? 一緒に寝ようか?」

「せ、先輩、何言ってるんですか!!」

「だって、毎日忙しいのに、眠れないとつらいでしょう?」

「わかってるんですか? ……俺は……男ですよ?」

「う~ん、朔も気にしないと思うけど。でもこっちの部屋に来るのが嫌なら、私が八葉の部屋に行……」

「絶対にダメです!!」

「だけど」

「俺なら大丈夫ですから! 本当に、気にしないでください」

「気にするよ!」

「先輩……!」

「! あ、じゃあね、私、誕生日プレゼントほしいな」

「え?」

「夜じゃなくていいから、譲くんと一緒に昼寝する権利! ね、ちょうだい!」

「い、一緒に…って……」

「あ、一緒が嫌なら、膝枕にしよっか?」

「!!!!!????!!??」

「やったことないけど、あれってどのくらい重いのかな? 試しにちょっとここに寝てみてくれる?」

「先輩~~っ……!!!」

「ほら~! 主役の言うことは聞く~! 今日は誰の誕生日?」

「それは~……」

「さっさと寝て! 文句言わない!」

「し、失礼……します……」

「よろしい!」

「…………………………」

「……ふうん、こんな感じなんだ。何か髪がくすぐったいね」

「…………………………」

「あんまり重くないけど、譲くん、ちゃんとリラックスしてる?」

「…………………………」

「あれ? 譲くん? どうしたの? 譲くん?」



* * *



「で、肝心なときにお前は神子姫さまの膝の上で気絶したと」

「ヒノエ! き、気絶じゃない! あれは貧血だ」

「僕が通りかからなければ、きっと朝までだって膝枕を続けていたと思いますよ、望美さんは」

「弁慶さん、迷惑をおかけしました」

「弁慶がお前を連れ帰った後、姫君は部屋まで這っていったらしいぜ。足がしびれて」

「……最悪だ」

「おや、そうと知っていれば僕が抱いて運んであげたのに」

「…最悪の事態だけは避けられたみたいだな、譲」

「う、うん」

「君たち……」



* * *



「どうしたの? 望美」

「うん……。譲くん、やっぱりものすごく疲れてるんだろうなって思って。横になっただけですぐ眠っちゃうくらいだから」

「……まあ今回の場合、膝枕というのも大きな原因だとは思うけど」

「ねえ、朔、八幡宮でお守りをもらうことはできるのかな?」

「お守り? 譲殿のために?」

「うん。夢見がよくなるお守り。私たちの世界にはあったんだけど」

「そうね。お願いすればいただくことができるかもしれないわ」

「私、今度時間ができたら行ってくるよ。添い寝は断られちゃったから、せめてお守りを渡したいの」

「そ、添い寝? 望美、あなたね……」

「何?」

「……譲殿も気の毒に」

「????」




そうして後日、望美はお守りをもらいに出かけたのだった。




→あの有名なエピソードにつづく……



 

 
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