永遠の誓い ( 4 / 4 )
翌週、将臣を除く八葉全員が出席して、ささやかながら温かい婚礼の祝宴が催された。
内輪だけとはいえ、那須与一兄弟をはじめ、陣を共にした源氏の武士たちも顔を揃え、九郎の媒酌で酒が酌み交わされる。
祝いを述べるため、譲と望美の前に進み出たヒノエと敦盛は、懐からそっと書簡を差し出した。
「……これは……?」
「……あ、ヒノエ、もしかして……」
不思議がる望美に譲が囁く。
「兄さんですよ」
「え!?」
ヒノエが微笑みながら片目をつぶる。
「あとでゆっくり読めよ」
「ヒノエが船を出して祝言のことをお知らせしたのだ。
私あての文でも、たいそうお喜びの様子だった」
敦盛が付け加えた。
「また英語かな?」
二人が下がってから、望美が譲に囁く。
「隠すようなことではないですから、たぶん大半は日本語だと思いますよ」
「……だよね。辞書なしじゃそんなに書けないし」
クスッと望美が笑った。
「将臣くん、まさか私や譲くんのほうが先に結婚するなんて思ってなかっただろうね。
今じゃ私より3つも年上なんだから、結構ショックだったりして?」
「……まあ……ショックはショックだと思います……別の意味で……」
「?」
「いえ……何でもありません」
「??」
ぽかんとした望美の表情を見ながら、譲は苦笑した。
(この人は、兄さんはもちろん、ほかの八葉たちの想いにも気づいていないんだろうな)
* * *
やがて宴が終わり、主役の二人は真夜中過ぎにようやく部屋に戻った。
譲が用事を片付けてから寝所に入ると、望美は簀子縁に出て空を見上げていた。
その傍らに歩み寄る。
「……ああ、満月ですね」
秋の澄んだ空に、見事に満ちた月が浮かんでいる。
「きれいだね。今夜が満月って、何かうれしいな」
譲の肩に頭を寄せながら、望美が言った。
「景時さんのことだから、それも考えて祝言の日取りを決めたんじゃないですか」
「そうかな? だったらお礼言わなきゃ」
そのまましばらく、二人で月を見つめていた。
「月の光は昔から好きだったけれど……俺には遠すぎて……
美しすぎて手が届かない…どこか冷ややかなものだと思っていました。
でも今夜は何だか……とても温かく見える……」
少し目を細めながら、譲が言った。
「お月様はいつでもこんなふうに優しく光っているよ。
きっと、譲くんの感じ方が変わったんじゃない?」
「……そうですね」
望美の肩を抱き寄せながら、譲が答える。
そうしてそのまま、言葉を途切れさせた。
「……譲くん?」
望美が不思議そうに見上げる。
しばらく沈黙を続けた後、譲は不意に口を開いた。
「……望美……さん」
「!」
視線が交わされる。
「……そう……呼んでもいいですか?」
両手を口にあてたまま、望美が何度もうなずいた。
「今日からよろしくお願いします、望美さん」
「……私こそ……! よろしくお願いします、譲くん……!!」
ポロポロと涙をこぼす望美を胸に抱きしめながら、譲はもう一度月を見上げる。
「本当に……優しい光だ……」
雲一つない夜空の満月は、簀子縁に立つ二人を煌煌と照らし続けた。
自分のこの腕の中の満月を決して離しはしない。
譲は空の月に向かって、そう誓っていた。
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