とっておきのプレゼント

 



「入試の直前に無理をする必要はありませんよ、花梨さん」

勉強机の前で総復習を手伝いながら、幸鷹が微笑んだ。

「でも、せっかくのお誕生日なのに……」

花梨は口をとがらせて反論する。




1月初旬の日曜日。

大学入試を目前にして、花梨の受験勉強は最後の追い込みに入っていた。

頭脳明晰な家庭教師がつきっきりで教えてくれたおかげで、1年前には望むべくもなかった大学の合格圏内にいる。

とはいえ試験は水もの。

油断なく準備をする必要は、花梨自身も十分感じていた。




「……じゃあ、今年だけ! 今年だけ、お誕生祝いを少し待ってもらっていいですか?」

花梨はしぶしぶ妥協案を口に出す。

「ええ、もちろん。憂いが晴れた明るい笑顔で祝っていただいたほうがいいですから」

幸鷹は満足そうに頷いた。

「でも、プレゼントのリクエストだけは先に聞かせてください。準備もあるし」

「準備の必要はないものですから、安心してください」

「え~、でも……」

「保証します。
私が一番欲しくて、あなたが確実にくださることができるものは、準備がまったく必要ありません」




突然、幸鷹を見つめる花梨の顔がカアーッと赤くなった。

幸鷹は苦笑して、

「多分、あなたが今想像されたものでもありません」

と伝える。

花梨の頬の赤さがさらに増した。

「じゃあいったい何なんですか?! すごく気になります!!」

「それを学習のモチベーションに変えてください。さあ、もう一度復習しましょう」

「幸鷹さん~!」

「では、現在分詞と過去分詞の形容詞用法の使い分けを例文で示してください」



* * *



しばらく後。

幸鷹と一緒に合格発表を見に行った花梨は、「プレゼント」の中身をついに聞かされることになる。




「では、そろそろ誕生祝いをいただいてもよろしいでしょうか」

公園の木立ちの中のベンチに座ると、幸鷹は花梨の顔を覗き込んだ。

「は、はい。私にプレゼントできるものなら何でも」

両手をきちんと膝の上に揃え、頬を上気させて花梨が答える。

「…目を閉じていただけますか?」

「え? は、はい……?」

微かに震える花梨の耳元に、幸鷹の気配が近づいた。




「……花梨」




低い囁き。




「!!??」

花梨がパチンと大きな目を開く。

目の前で幸鷹が微笑んでいた。




「……と、今日から呼ばせていただきたいのです」

「え?! そ、それだけ?」

「ええ。最高の誕生日プレゼントです。距離がとても近くなる気がしませんか?」

「そ、それはそう……ですけど……」

「ありがとうございます、花梨」

「ちょ、ちょっと待ってください! 私、心臓が……!」

幸鷹の少しハスキーな呼びかけには、想像以上の破壊力があった。




真っ赤になった花梨を引き寄せると、幸鷹は柔らかいキスを唇に落とす。

「合格おめでとうございます、花梨。よくがんばりましたね」

「幸鷹さん……」

愛しい人の瞳は、暖かい愛情に彩られていた。

腕の中で気を取り直し、あらためて口を開く。

「幸鷹さんのおかげです。
それから、遅くなっちゃったけどお誕生日おめでとうございます」

「あなたと一緒に祝えることが何よりの喜びです、花梨」

「ゆ、幸鷹さん! 名前、呼びすぎですよ!」

「いただいたものは、すぐに使わなくては」

「…な?!」




(私はもしかしてとんでもないプレゼントをあげちゃったのかな?)

と、頭の片隅で思いながら、再び近づいてきた幸鷹の瞳を前に、花梨はうっとりと目を閉じる。




「花梨……」

深く艶やかな声が、耳の奥にこだました。









 

 
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