守護神 ( 2 / 3 )
「できたのか?」
突然そばで声がして、思わず飛び上がる。
「な、な、な…!?」
「どれ、見せてみろよ」
勝手知ったるわが家のように、冷蔵庫に手をかけようとする将臣を望美が必死で止めた。
「ちょっ…! ま、待ってよ、将臣くん! っていうか、なんで普通にうちの中にいるの?!」
こんなでっかい男がいきなり現れたのだから当然驚く。
しかし将臣は「何を今さら」という顔をして、
「おばさんが入っていいっていうから。しかし望美、少しは片付けながら料理しろよ」
と、うずたかく積まれたボウルや鍋や計量カップやスプーンを呆れたように見た。
望美の顔がカーッと赤くなる。
「し、しょうがないじゃない。初めてでよくわからなかったんだから。将臣くんこそ、暇なら洗うの手伝ってよ!」
「…まあ……ことと次第によっちゃあ、手伝わないこともないけどな」
「?」
頭上にクエスチョンマークを浮かべる望美を軽くスルーして、将臣はボウルの1つを手に取った。
「おい、これ、生クリームか? ずいぶん固く泡立てたもんだな。もうバター寸前じゃねえか」
「え? バターってそうやって作るの?」
望美のリアクションをまたもスルーして、ひと口ペロリとなめてみる。
そしてそのまま将臣は黙り込んだ。
「将臣くん?」
「……望美………」
何やら深刻なムードを感じて、望美はゴクンと喉を鳴らす。
「…おまえ……これ、どうやって作った?」
妙にゆっくりと将臣が尋ねる。
「どうやってって、生クリームをハンドミキサーでかき混ぜて…」
「ほかには? 砂糖とかリキュールとか」
救いを求めるようにこちらを見る。
「お好みでって書いてあったから入れなかったよ」
がくーっと将臣が床に座り込んだ。
「ま、将臣くん?!」
「お好みの『量』で…だ! この生クリーム、味しねえっていうか、バターじゃねえかほとんど!」
「ええっ?!」
望美もボウルに指を突っ込んでひとなめしてみる。
「……油っぽ〜い…」
「バターだろ」
コクンとうなずいたところで、望美は急に焦り出す。
「ど、ど、どうしよう将臣くん。ケーキにこの生クリームを嫌ってほど塗っちゃったよ!」
「味見くらいしろよ、おまえは! とにかくケーキを出してみろ!」
望美は慌てて冷蔵庫の扉を開け、入れたばかりのケーキを引っ張り出した。
将臣はそれを、危険物でも吟味するように四方からじーっと眺める。
「…あ、あんまり見ないでよ。これでも一生懸命作ったんだから」
「まあ、一生懸命は伝わってくるぜ。俺も、これが人の口に入るものじゃなけりゃ見逃してやるんだけどな」
ケーキの端のボロボロの部分を指で確かめながら、ふうっと大きな溜め息をつく。
「よし、望美。一切れ切ってみろ」
「ええっ?!! だって、譲くんに見せる前なのに! そんなことできないよ!!」
必死で抗議する望美の顔の前に、将臣は人差し指を立てた。
「このケーキにはあのバターもどきがたっぷり塗ってあるんだよな」
「……う、うん…」
さすがにタジタジとなる。
「中身のスポンジも、当然味見してないんだろう?」
「…うん…」
「おまえが生クリーム同様、レシピを拡大解釈した可能性もあるわけだよな」
そこまで言われると、望美も不安になってくる。
「……かも………」
|