セカンドキス ( 1 / 2 )

 



先輩は、そんなにすぐのつもりはなかったかもしれない。

でも、あの言葉を聞いて、俺の頭にはすっかり血が上ってしまった。

力一杯抱き締め、迷わず唇を重ねる。

温かくて、柔らかくて、湿った、不思議な…甘い感触。

抱いた肩の細さ。

髪から立ち上るかぐわしい香り。

うなじに手を添え、腰を強く引き付けて、俺は夢中でキスをした。

驚いていた先輩も、やがてゆっくりと俺の背に手を回す。




最初のキスは何が何だかわからなくて、ただほんの少し触れた唇の柔らかさと温かさだけが記憶に残っていた。

でも今は、渇いた人間が水を飲み干すように、この夢の杯をあおり、甘やかな美酒を心行くまで味わっている。

そう、酔いしれていた。



* * *



先輩が苦しそうに身動きしたのに気づいて、慌てて身体を離す。

「あ! す、すみません! 苦しかったですか?」

「ん、ちょっと……。コツがわからなくて」

少し息を乱しながら、頬を染めて答えた。

「コツ?」

「…息を吸うタイミングが…」

「ああ…」

額に手を当てて考える。

「口は…ふさがってるんですから、やっぱり鼻で吸うんじゃないですか」

「そ、そうだよね! 息を止めてるとすごく苦しいもん」

真剣な顔をして訴えるので、思わず笑ってしまった。




「譲くん?」

「すみません。そんな苦しい思いさせてたんですね」

あまり笑っては悪いと思って、口を手で隠した。

それを先輩はじーっと見ている。

「譲くんは……慣れてるの?」

「え?」

「……キス」

「ば…!」

思わず彼女の両腕をつかんでしまった。

「馬鹿なこと言わないでください! 俺が先輩以外とキスするわけないでしょう!?」

「でも…明らかに私よりうまいよね」

上目遣いでうらめしそうに言う。

いや、そんなこと責められても、たまたまで…。




「わかりました。じゃあ、練習をしましょう」

俺が言うと、先輩が大きな目をさらに大きく見開いた。

「練習?」

「ええ。キスする時間を段々延ばしていけば、コツもつかめるでしょう?」

「そ、それはそうだけど」

まさかそんな展開になるとは思わなかったらしく、先輩は真っ赤になった。

「俺の濡れ衣をはらすためにも、先輩にはすぐにうまくなってもらわないと」

わかったようなわからないような理屈を口に出す。

実際のところ、俺はその赤い唇にまたキスをしたくて、抱き締めたくて、ただ口実を一生懸命探していたに過ぎない。

だが、先輩は結構真剣にその提案を吟味して、

「じゃあ、苦しくなったら腕を叩くから、そこまでは続けるということで」

と、潜水か柔道の寝技みたいなことを言ってきた。