砂糖蜜な二人 6 (1 / 2)
龍神温泉を出て、新熊野権現に着くと、将臣は連れがいるから、と一人先に勝浦に行ってしまったのだ。
熊野川の怪異を聞いていながら、解決は任せた、と言って立ち去った。
「小学生の頃から、全然変わらないんだから、兄さんは……」
「団体行動、苦手だもんね」
呆れたように言う譲に、望美も笑う。
文句を言いつつ、勝浦へ向かう。
新熊野権現で聞いた情報を確かめに、川へ向かい、怨霊を見つけたものの、下流に逃がしてしまったからだ。
下流の方にある大きな町の勝浦で、情報を集めることになった。
勝浦に着いたとたん、白龍が目を輝かせた。
「すごい、あれは何? 水に浮かんでいるのに、家よりも高いよ」
「ああ、外洋に出るための交易船だよ」
ヒノエの説明に、白龍が駆け出すので、望美が慌てて追う。
「じゃぁ、俺たちは一端宿に戻るから。宿の場所、間違えるなよ」
ヒノエが笑いながら歩き出し、他の皆もそれに続いた。
「じゃぁね、譲殿。二人をお願いね」
「え? あ、ああ」
朔に背中を押されて、譲は小さく頷くと望美の後を追った。
(何か、最近やたらと二人になるような)
今回は白龍もいるけれど、と譲が心の中で考えつつ、望美と白龍の後を追った。
「先輩、白龍」
海の近くで、波風を心地よさそうに受けている二人に声をかける。
「譲〜」
「あ、譲くん、ごめんね」
嬉しそうに振り返る白龍と、謝りながらも笑みを浮かべる望美に、譲も微笑んだ。
「ここは気が流れている。とても心地よい。神子も元気になるよ」
「流れてる?」
「そう。留まらず、前へ進み続けている」
首を傾げつつも、譲が補足する。
「活気がある場所では元気付けられますから、そういうことでしょうか」
「ああ、そうかも」
にっこりと頷く白龍と一緒に、市場を見て歩く。
「わぁ、すごい、珊瑚に真珠だ」
「綺麗ですね」
交易船が運んできたものだと、市場のおばさんが笑って教えてくれる。
「綺麗なピンク色だぁ」
「桃色珊瑚ですね」
先輩に似合いそう、と譲が呟くと、白龍が笑顔で答えた。
「これは神子に合う。神子の気を整え、禍を祓う。神子を守るよ」
そうなの?と首を傾げる望美に、譲が頷く。
「そういえば、珊瑚は魔除けでもありましたね」
「そうなんだ」
譲君、物知りだね、と望美が言うので、譲が小さく笑う。
「祖母が持っていて、聞かされたんです。祖父が贈ったものだそうで。とくにピンクの珊瑚は――」
望美の顔を見ながら微笑んで説明していた譲が、突然言葉を止めるので、望美がこてんと首を傾げて、譲を見上げた。
「ピンクは?」
「あ、いえ、なんでもないです。女性的で可愛いですよね」
ほんのり赤くなって、眼鏡を押し上げながら、譲が誤魔化すように望美から珊瑚に視線を移した。
そんないつもの様子に特別疑問を抱かず、望美も珊瑚を見る。
譲への想いを自覚しても、こういう所は以前と全く変わらない望美だった。
「いいなぁ」
「欲しいですか?」
「んー、可愛いけど、輸入物っぽいから、高いでしょ?」
「大きいのはムリかもしれませんが、小さいものなら大丈夫ですよ。少しは持ち合わせがありますから」
小さいとはいえ、加工され、磨かれた珊瑚はピカピカしていて、色もムラなく綺麗で、現代でも相応の値がしそうだ。
まして、この時代ならなおのこと。
「ううん、いいの」
ただでさえ忙しい譲が、合間にアルバイトまでして稼いだお金。
使わせるのは申し訳ない。
譲がまだ何か言いたそうにしているので、望美がその手を取る。
「珊瑚じゃなくて、譲くんが守ってくれるから、いいの」
「先輩……」
えへへ、と頬を赤く染めて笑う望美に、同じく顔を上気させて微笑む譲。
夏の熱さもなんのその。そこだけ春の陽だまりのような状態で、微笑みあいながら見詰め合う二人の周りで、早く移動してくれないかなと、市の人たちは思っていた。
「そ、そろそろ宿へ戻りましょうか」
「あ、うん! 白龍も……あれ? 白龍!?」
「え? ついさっきまで、そこにいたのに!?」
二人が下を見てキョロキョロする。
そんな様子に市の店番をしていた人が、声をかけた。
「あのちっこい子なら、一目散に浜へ駆けていったよ」
「ええ!?」
「何で!?」
目を見開く二人に、呆れたように言う。
「そっちの姫さんが、いいなぁって言ったあたりで、みこののぞみ叶えるってあんたたちに叫んでから、走ってったけど、耳に入ってなかったんだねぇ」
言われて真っ赤になる二人。
「はいはい、早く迎えにいっておやり」
「あ、はい」
「ありがとうございます!」
礼儀正しくお辞儀をして、二人は浜へ駆けて行った。
「やっと涼しくなったな」
「なんつーか、ねっとりとした空気だった……」
はぁ、と溜め息を付くのは、二人の濃密な空気にあてられて、熱中症寸前の市場の人たちだった。
* * *
「白龍ー!」
「白龍〜 どこ〜?」
二人一緒に手を繋いで浜を歩く。
二手に分かれた方が効率的なのだろうけれど、そう思った望美が譲から離れた途端、即ナンパされたので、迷子防止という名目で、手を繋いで牽制する譲だった。
「あ、神子、譲!」
「白龍!」
子供の白龍を見つけて、ほっとして駆け寄る二人。
「白龍、どうしたんだ? こんなところで」
譲が叱るように言うと、白龍は下を向いたまま答えた。
「うん。この辺りに」
あった、と白龍が微笑む。
何だろうと二人で見ていると、白龍が砂浜から何かを拾い上げた。
「神子、これを」
そう言って立ち上がった白龍の姿が白く光る。
そして。
「は」
「く」
「「りゅうぅう!?」」
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