砂糖蜜な二人 2
「望美は譲殿が乗せたほうがいいと思うの。ほかの人たちより、安心だもの」
「ですが、俺の馬術は九郎さんたちほどではありません。俺の腕では、先輩、不安がるのでは?」
「……譲殿」
「はい?」
「普通馬に相乗りするときは、手綱を取る人が後ろに座るわね」
「ええ、そうですね」
「つまり、望美は馬の首と殿方の間に座ることになるの。その状態で手綱を取ったら、どういう状態になると思う?」
朔に言われて素直に想像する譲。
それは、まるで抱きしめているような光景。
「ヒノエ殿や、弁慶殿などは、危ないから、と言って、しっかりと望美の体を抱き寄せそうね……」
そこまで聞いて、譲は景時の邸を飛び出した。
「九郎さん!俺に馬術を徹底的に教えてください!!」
「譲は本当に熱心だな。わかった。俺にできる限りのことをしよう」
九郎は三草山の戦で、このことを後悔しそうになるのだった。
その三草山の行軍。
「先輩、寒くありません?」
「平気。譲くんがいるから、暖かいよ。この薄衣(羽織)も作ってくれたし」
「山は冷えますからね。それに…その、先輩は足が見える衣装だから、せめて戦闘のないときだけでも、その見せないほうが……」
「そうだね、変に思われちゃうよね」
「そうじゃなくて……見せたくないというか……」
きょとんとする望美に、譲が早口に言う。
「男ならそういう目で見るかもしれないでしょう? こっちでは、珍しいですし」
「譲くんはいつも私を守ってくれるね」
「そんな……」
「ありがとう」
にこりと微笑んだ望美の体が、馬の振動で僅かに揺らぐ。
「あ、危ないですよ、もうすこし、俺の方によって…寄りかかってくれて大丈夫ですから」
そっと体を抱き寄せられ、望美がぽっと赤くなる。抱き寄せた譲の頬もほんのりと赤い。
「でもでも、譲くん、重くない?」
「先輩は羽衣の天女のように軽いですよ」
「もう……ありがとう」
そっと譲にもたれかかる望美。照れくさそうに、嬉しそうに微笑みながら、譲に擦り寄る。
「譲くんは上手だね。すごく安心する」
「先輩が辛くないよう、頑張りましたから」
「いつもありがとう、譲くん。大好きだよ」
「先輩……」
言われた譲は真っ赤だ。照れ隠しに、いつもの癖で眼鏡を押し上げる。
そんな様子に、望美は言いつくろうように、いささか早口で言う。
「あ、その大好きってのはね、あの」
「はい、俺も大好き、ですよ。大事な幼馴染ですからね」
「そ、そうなの。そう、なのよね」
真っ赤になって言い訳しつつ、望美は再び譲に体を預ける。
「先輩、少し眠ってもかまいませんよ」
「でも……」
「疲れているのでしょう? 大丈夫、落としたりしません」
「うん……ありがとう」
胸に頭を摺り寄せて、望美はそっと目を閉じた。
「アレはどうにかならんのか。士気が下がる!!」
九郎がうんざりした様子で愚痴を零す。
「徒の兵たちは会話までは聞こえていないでしょうが、ああも二人だけの雰囲気を作られては……」
弁慶も困ったように言うけれど、景時と同乗している朔はけろりとして言った。
「この戦の勝敗は、望美が鍵なのでしょう? だったら、まず、望美の士気を上げないと」
「あれで士気が上がっているのかなぁ」
景時がぼやくが、朔はにこりとして答えた。
「少なくとも、下がってはいないわ。譲殿を守るためならなんでもするって言っていたもの。
譲殿を近くに置いたほうが、望美の士気は上がるわよ」
「神子と譲、絆が上がっているよ」
白龍が無邪気に笑う後ろで、ヒノエが渋面を作る。
「その分こっちの士気がさがりそうなんだけど」
「男なら耐えなさい」
「神子の望みが第一だ」
にっこりと朔に言い切られ、リズヴァーンに同意され、男達は砂を吐くのを堪えつつ、陣を張る場所はまだだろうかと、遠い目をした。
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