砂糖蜜な二人
その特殊な呼び方に、ふと疑問に思ったのが切欠だった。
「先輩、おかわりいりますか?」
「うーん、おいしいけど、あんまり食べ過ぎると動けなくなるからなぁ」
「食事はしっかり取った方がいいですよ。先輩、こっちにきて、少しやせたみたいだから」
「え? そう?」
「はい。昨日抱き上げたとき、はっきりと感じました」
「え? 抱き上げた?」
「先輩、昨夜一緒に星を見ながら眠ってしまったでしょう? 寝所まで、運んだんですよ」
「え!? 譲くんが運んでくれたんだ。全然覚えてない……や、やだ、譲くん。重かったでしょ?」
「軽かったから、心配なんですよ」
頬を染めて上目遣いに譲を見る仕草は愛らしく。
それに笑みを返して気遣う譲も愛らしく。
夜の逢瀬まで重ねる仲。
どこをどうみても可愛い恋人同士だったので。
「譲たちの世界では、妹の君を先輩と呼ぶのか?」
単純にそう思って口にしただけなのだが。
「いも?」
「ち、違いますよっ」
九郎の問いかけに対し、きょとんと首をかしげた望美と反対に、真っ赤になって譲が否定した。
「朔、いもの君って、何?」
「恋人や妻になる相手のことよ」
「つつつつつまぁ!?」
望美も譲に負けず真っ赤になる。
「だが、譲はいつも望美を『せんぱい』と呼ぶだろう?」
「先輩というのは学校で先に教えを学ぶ人……ええっと、分かりやすく言えば兄弟子、姉弟子のような存在です」
「そ、そうだよ。妻だなんて、早すぎるよ」
「こちらではそう早いというわけでもありませんよ。それに、いずれそうなる相手なのでは?」
弁慶が笑みを零して言うと、望美はすごい勢いで首を振った。
それに譲が少しだけ寂しそうに苦笑した。
「そうですよ。それに、先輩には兄さんがいますから」
「なんで将臣くん?」
「ええっと、よく先輩と付き合っているって噂が……」
「そんなのただの噂だよ!! 譲くんだけは信じないで!!」
「は、はい」
望美に詰め寄られ、譲がほんのり赤くなって答える。
あまりの近さに二人して赤くなり、ぱっと離れた。
「なんで、譲だけは嫌なんだい、姫君?」
ヒノエが苦笑しながら言うと、望美はけろりとして答えた。
「だって、譲くんは大事な幼馴染だもん。誤解されたくないよ」
「ふぅん」
望美の返事に、ヒノエが呆れたように肩をすくめた。
どう考えても、好いているからとしか思えない。
「先輩、食事が終わりなら、デザートをどうぞ。甘いものは頭の働きに良いですからね」
「わぁ、マメ大福だ! すごい、良く作れたね!!」
「砂糖がないので、餡の甘味が弱いですけど」
「ううん、すっごく美味しいよ!」
嬉しそうに微笑む望美を、譲が優しい眼差しで見つめる。
その様子はほほえましくも砂を吐きそうな雰囲気なのに。
「本当に二人は付き合っていないの?」
朔が不思議そうに言うけれど。
「違うよ。そりゃ、譲くんは大事な相手だけど」
「違いますよ。そりゃ、先輩は大切な人ですけど」
答えるタイミングまで一緒なのに。
どうして。
「あつっ」
お茶を受け取った望美が、湯のみを揺らしてしまい指に熱いお茶を被った。
「大丈夫ですか、先輩!」
二次災害を防ぐ為に、譲はすかさず望美から湯飲みを取り、お茶がかかった指を反射的に口に含む。
ぺろりと舐め上げられ、望美は真っ赤になって固まった。
「ん…、大丈夫、かな?」
「ゆ、譲くん……」
名を呼ばれ、初めて自分の行動を冷静に思い返し、譲もまた真っ赤になる。
「あ、すみません、いきなり……舐められたりして、嫌ですよね」
「ううん、譲くんなら、嫌じゃないよ。び、びっくりしたけど」
「そうですか」
「うん……」
そこまでして、言って、何故理解しない。
赤い顔で頷きあう二人に周りが砂糖を吐き始めた。
しばらくぽーっとしていた望美だが、譲を見ていて何かを思い出したように言った。
「あ、ねぇ、譲くん、今日の午後、あいてる?」
小首をかしげて甘える望美に、譲が相好を崩す。
「はい。買出しにでかけるくらいですよ」
「あ、じゃぁ一緒に行っていい? あのね、綺麗な花が咲いているところを見つけたんだ。買出しがてら、散歩しよv」
「それなら、早めにでてピクニックにしませんか? 何かお菓子を作りますよ」
「お菓子!」
望美と同じように反応したのは白龍。
「ああ、白龍も一緒にいくかい?」
「う「白龍は私と出かけるのよね?」
うんと言いかけた白龍の口元を押さえて、朔が言う。
「そうなの? 朔も一緒に、と思ったのに」
「私たちは気にしなくていいから、二人でゆっくりなさい」
二人で、と言われて、またほんわかと赤くなる望美と譲。
「あ、じゃぁ、おやつを作っていきますね。先輩、何がいいですか?」
「譲くんの作るのはなんでも美味しいよ」
「それは嬉しいですけど困った返事ですね」
えへへ、と笑う望美に、譲が仕方のないひとだなと微笑む。
「もっていくならクッキーの方がいいかな。じゃぁ、俺ちょっと準備しますね」
「うんv 私も修行を済ませてくるね」
午後のデートに浮かれてか、いっそ口付けでもしそうなくらい甘い気配を振りまいて二人が微笑み合う。
そうして部屋を出て行く二人を見つめて、景時が溜め息混じりに呟いた。
「なんで、アレで恋人じゃないって言うのかなぁ~」
「色恋に関しては、壊滅的に鈍い二人のようですね」
景時の言葉に、弁慶が苦笑いをして答えた。
「あいつら見てるとほほえましいのを通り越して胸焼けしてくるんだけど」
ヒノエの呟きに、ほぼ全員が溜め息を吐く中、白龍が不思議そうに首をかしげた。
「神子と譲は思いあっているよ? 思いあう二人を恋人と言うのではないの?」
「……そうね、普通はそう言うものよ」
朔の答えに、白龍はますます分からなくなったようで、しきりに首を傾げたが、彼の疑問を解消できるものは居なかった。
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