リュミエールさまのお誕生日 ( 1 / 2 )

 



「絶対に忘れてるよ!」

「…っていうより、気にしてねえんじゃねえのか」

ふくれっつらのマルセルに、ゼフェルが頭をかきながら答えた。

「もう〜〜! あんなにいつもお世話してもらってるのに、クラヴィスさまには感謝の心とかないのかな」

「そんなことないさ!」

このところ妙に闇の守護聖にまとわりついているランディが、口をはさんだ。

「ああ見えて、結構お優しいところもあるんだ。
だいたい、安らぎを司る守護聖でいらっしゃるんだぞ」

「オレ、あいつの前で安らげたこと一度もねーぜ」

「僕も」

「……」

年少組が、庭園に集まってみんなで気をもんでいるのは、もうすぐやってくるリュミエールの誕生日についてだった。

優しさをもたらす水の守護聖は、穏やかな性格ゆえに多くの人に慕われているが、誰の目から見ても最も親しいのは闇の守護聖。

その彼に「もてなしの心」が期待できないため、まわりがやきもきしているのだ。



* * *



「あ〜、誕生日ですか〜。
そういえば去年のクラヴィスの誕生日は大騒ぎでしたねえ」

お茶をすすりながら、地の守護聖が言った。

ここは彼の私室。行き詰まった年少組が、知恵を借りに押しかけたのである。

「オレには極楽鳥の誕生日のほうがずっときつかったけどな」

「あ〜! ええ、ええ。あれもまたすごいことになりましたねえ、うんうん」

「ルヴァさま! 僕たち昔話じゃなくてご相談をしに来たんです」

マルセルが、テーブルに身を乗り出して地の守護聖をさえぎった。

「ああ、申し訳ありませんねえ、マルセル。
さて…クラヴィスにリュミエールの誕生日を祝わせる…ですか〜。
う〜ん、何とも難しい課題ですねえ」

「でも、クラヴィスさまはリュミエールさまに対して感謝の気持ちはお持ちですよね」

今度テーブルに身を乗り出したのはランディ。

「それはもちろん持っていますよ。だいたい何のかんのと言いながら、ジュリアスの誕生日もオリヴィエの誕生日も、アンジェリークの誕生日も祝っていましたからね。
決して嫌いなわけじゃないと思うんですよ。
でもあの人に幹事をさせるというのはねえ……」

「か、幹事は無理だろう。いくらなんでも」

のけぞりながらゼフェルが言う。

こういうときの彼の意見は至極まともである。




「いっそのこと、お2人で休暇旅行に行っていただくとか」

ランディの提案を一瞬全員が頭の中でビジュアル化した。

「てめえ馬鹿か! リュミエールの罰ゲームじゃねえんだぞ」

「気苦労多そう」

「う〜ん、案外喜ぶかもしれませんがねえ。クラヴィスのほうが嫌がるでしょう」

再び沈黙。

「同期のオリヴィエさまかオスカーさまに幹事になっていただく……ってわけにもいきませんよね」

マルセルが宙をにらみながらつぶやく。

前者が幹事になると出席者全員が恐怖におののくことになるし、後者と水の守護聖の不仲は有名だ。




「幹事は、私がやりましょう。マルセル、あなたも手伝ってくれますね。
クラヴィスには、そこに出席してもらうだけで十分でしょう」

地の守護聖が微笑みながら言った。

リュミエールの好きなハーブティーを囲み、陽光の降り注ぐ庭園でお茶会を開く--という提案は、確かに水の守護聖の誕生日に最もふさわしい。

「じゃあ俺はクラヴィスさまをその会場までひっぱってくる役を務めます」

「ありがとう、ランディ。ついでに庭園の草むしりも手伝ってくださいね」

「はい!」

「あなたもですよ、ゼフェル」

そっと逃げ出そうとしている鋼の守護聖の背中に、ルヴァはにこやかに言葉を投げた。

「僕、ディアさまにご相談してお菓子を作ろうっと。
ロザリアやアンジェも手伝ってくれますよね。あとはお花と、テーブルクロスや茶器…」

「そういったものは、私がオリヴィエと相談してそろえましょう。
それよりマルセル、あなたには飛び切りのハーブティーを用意してもらわなければ」

「あ、そうですね! うわあ、どんなお茶にしようかな」

「おいおい、調子に乗ってわけのわかんねえ飲み物作るんじゃねえぞ」

憎まれ口をきかずにいられないゼフェルにあかんべえをすると、緑の守護聖は軽やかにドアを抜けて駈けていった。



* * *



「茶会か。それはよいな」

ルヴァから事の次第を聞いたジュリアスは、満足げに微笑んだ。

手元には金細工を施した純白の羽根ペン。

昨年の誕生日に彼がルヴァとリュミエールから贈られたプレゼントである。

「真っ昼間のお茶会ですか……」

少し気落ちした声を出したのは、炎の守護聖。

「ええ、だから残念ですが、今回はアルコール抜きということで」

「子供たちも出るのだ、当然だな」

地の守護聖と光の守護聖の言葉を背に受けて、オスカーはひっそりとつぶやいた。

「あいつと俺の趣味が合うわけがないんだ」




「それで、リュミエールは予定どおり戻ってこられそうなんですか」

壁際でいじけるオスカーに気づきもせず、ルヴァはジュリアスに問いかけた。

「ああ。王立研究院からの報告では、1日には戻れそうだということだ。
今回はかなり長期間の出張だったので、とりあえずそのまま休暇に入らせようと考えている」

「そうですね。衣食住に不安がなく、医療も高度に発達した惑星--
なのに異常に自殺率が高い…。難しい仕事だったと思いますよ」

ジュリアスがフッと微笑みを見せた。

「私はもちろん、そなたにも、オスカーやゼフェルにも特に問題なしと映る惑星に、リュミエールを遣わされた陛下の慧眼はやはり素晴らしいものだな」

固く閉ざされた人々の心に優しさのサクリアを送るため、水の守護聖はすでに3週間を費やしていた。