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木漏れ日の庭 ( 3 / 3 )

 

嗚咽と涙は尽きることがないように思えた。

だがやがて、地面に水がしみ込むように、鷹通の言葉は少しずつあかねの心を和らげていった。

くすん、くすんと鼻を鳴らしながら口を開く。

「……ごめんなさい……私……こんな、子どもみたいなこと、言って……」

胸の中にすっぽり収まってしまったあかねの背にそっと手を添えながら、鷹通が答える。

「いいえ、神子殿。親を恋しく思わぬ人間などおりません」

その言葉に安心したのか、あかねはしばらく黙って鷹通の胸に身体を預けていた。


「……不思議…」

「はい…?」

沈黙の後にあかねが言った。

「泣いてもどうにもならないはずなのに、泣くと、何だかすっきりしますね」

「……少しはお心が晴れましたか?」

「はい……」

ほっとしたように、鷹通があかねの髪に触れる。

途端にあかねの顔が見る見る赤くなった。

「…神子殿…?」

「……あっ…!!」

いきなりガバッと身を離す。

「…神子殿…?!」

「ご、ご、ごめんなさい、私! 私!!」

今や全身真っ赤である。

「…何がですか?」

理由がわからない鷹通は心底不思議そうに尋ねた。


「だ、だ、だって、私、た、た、鷹通さんに抱きついちゃって!!」

「え……」

今度は徐々に、鷹通の顔が赤くなってくる。

「ご、ご、ごめんなさいっ!!」

「い…いえ、私こそ、ご無礼を、あの…申し訳ございません」

「そ、そんな、しがみついたのは私だし」

「あの、いえ…それはまったく構わないのですが」

「か、構わないって」

「え、いえ、その、変な意味ではなく」

「で、でも、思い切り抱きついちゃっ…」

「いえ、神子殿、抱き締めたのは私です」

「え……?」

「あの……決して変な意味ではなく、少しでもお慰めできればと。本当に申し訳ございません…」

「…………」

鷹通は話しながら赤くなり、ついには俯いてしまった。


あかねは少しためらった後、静かに近づき、その手に自分の手を重ねる。

「?……神…子殿……?」

鷹通が不思議そうに顔を上げた。

「……ありがとうございます、鷹通さん」

「…はい…?」

まっすぐに鷹通を見る。

「私、一人で泣くつもりでここに来たけれど、鷹通さんがいてくれて、何倍も何倍も慰められました。一人じゃなくて……鷹通さんがいてくれて、本当にうれしかったです。ありがとうございます」

「神子殿……」

感謝するあかねの笑顔を、鷹通がまぶしそうに見つめた。


「……私こそ、神子殿がおつらい思いをされていることに気づかず、申し訳ございませんでした」

後悔のこもった声。

あかねは両手を振ってそれを打ち消す。

「違うんです。私、普段はとてもやりがいを感じてるし、藤姫や八葉のみんなにもよくしてもらっているし、本当に元気なんです。今日はたまたま…」

「では……」

あかねの手を取って鷹通は言った。

「もしまた、たまたま泣きたい時がおありでしたら、どうか私におっしゃってください。いつでも、ここにお連れいたしますよ」

「鷹通さん……」

あかねが見つめ返すと、鷹通は少し照れたように微笑んだ。

「幼い日……あの椿の下で私は誰かに慰めてほしかった…。ですから今、神子殿のお役に立ちたいのです」

鷹通の肩越しに、先ほどの椿の木が見えた。

幼い鷹通はそこでどれほどの涙を流したのだろう……と、あかねは思った。


* * *


ようやく陽が傾き始めた道を、二人で土御門殿へと向かう。

しばらく物思いにふけっていたあかねは、突然言った。

「私が慰めたかったなあ、小さな鷹通さん」

「はい?」

鷹通の顔を見ながら、あかねは真剣な顔で続ける。

「だって、椿の木の下で一人で泣いていたんでしょう? まだちっちゃいのに。きっと、かわいかったんだろうなあ…」

「み、神子殿、何をおっしゃって…!」

鷹通が真っ赤になるのも構わず、うっとりとした顔でさらに言う。

「私だったらギュウって抱き締めちゃいます! 頬ずりとかしちゃって。いい子いい子って………あれ? 鷹通さん? どうしたんですか、そんなに早足になって! 鷹通さ〜ん、待ってください〜!」

結局、土御門殿まであかねは鷹通の後を小走りで追いかけるはめになった。

八葉失格……と、帰宅後の鷹通が落ち込んだことは言うまでもない。

 

 

 

 
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