時限性ツインズ ( 2 / 4 )
「将臣く〜ん! ちょっと待って〜!」
「よお、どうした?」
相変わらず水位が下がらない熊野川を確認した帰り、望美が将臣に駆け寄ってきた。
弾んだ息を整えた後、小さな声でそっとささやく。
「ねえ、あの誕生日プレゼント、そろそろ終わりにしない?」
「なんで?」
「だって! 譲くん、あれ以来明らかに将臣くんと話すの避けてるじゃない!」
「そうかあ?」
少し後ろを歩いている譲を振り返った後、将臣は視線を戻す。
「前からあんなもんだろ? 男の兄弟はそうしゃべらないんだよ」
「でも、将臣くん、本宮までしか一緒にいられないのに」
望美が悲しそうな顔で見つめた。
将臣は思わず苦笑いする。
「お前、相変わらずだな。俺と譲が仲良くしてないと落ち着かないのか?」
ずいぶんと昔、やはり望美がそんなふうに言ったことがあった。
懐かしい江ノ島と、七里ヶ浜の風景。
三人で手をつないで歩いた夕暮れの海。
「だって、この世に二人きりの兄弟なんだよ。異世界に流されて、やっと再会できたのに……」
「……そっか」
うなだれた望美の頭をぽんぽんと軽く叩く。
「……ま、そうだな」
「……将臣くん……?」
「じゃあ、その気持ちを素直に表明するわ」
「え?」
「譲〜っ!!」
唐突に大声で呼ばれて、譲は軽く後ずさった。
「譲〜、俺はお前に再会できてすごくうれしいぞ〜っ!!」
言いながら将臣が両手を広げて走ってくる。
上背があるのですごい迫力。
「な、何を突然言ってるんだ! 兄さ……」
「ふ〜た〜ご〜っ!! 今の俺はお前とタメ〜!!」
バフン!と抱きつくと、将臣は譲の顔の前に指を立てて念を押した。
「さあ、譲、俺を呼ぶ時は何て言うのかな?」
「な?! 何、そ…!?」
「ん〜? 聞こえないぞ〜?」
「も、もういい加減に…!! 」
「ほらほら、思い切って大声で!」
「俺を離せ〜っ!!
馬鹿臣〜〜っ!!!」
「あ〜、ちょっと発音違うわ」
周りの八葉たち(と望美)は、ただただ呆気に取られて見つめるのだった。
* * *
「さっさと出かける支度をしろよ、将臣」
「先輩をそれ以上からかうな、将臣」
「将臣、ゴロゴロしてるなら少し手伝え」
「ほら、これ。ほころびを縫っておいたから持ってけよ、将臣」
「…………」
「将臣くん? どうしたの?」
熊野川探索から帰った午後。
宿の縁側で、ぼーっと立っている将臣に望美が声をかけた。
「……望美か」
「何かあったの?」
問われた将臣は深く長いため息をつく。
「ん〜、最近、譲が平気で俺のこと、『将臣』って呼び出しただろ?」
「そうだね。あ、実は嫌だとか?」
将臣は首を左右に振った。
「そうじゃない。でも、な〜んかイメージと違うんだよな。俺はこう、静と動、光と影のような、ドラマチックな双子を考えてたのに……」
「のに……?」
「今の譲……あれじゃただの『おかん』だ」
「あー……」
「んー……」
セミの鳴き声が真昼の庭に響いていた。
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