冬はやっぱり… ( 1 / 3 )

 



ここ1カ月ほど、忍人は嫌な予感に苛まれていた。




トントントン。

「風早〜! こんな感じでいいか?」

「ああ、使いやすそうだ。さすがはサザキ。ねえ、道臣」

「本当に。これで炉の用意は完ぺきです」

カシャカシャカシャ。

「ふむ、出席者からの返事も順調に届いているようですね」

「柊、この竹簡ってかさばりすぎ。紙じゃだめなの?」

「あなたが紙漉きの技術指導をしてくださるというなら、ぜひ。那岐」

(おれ、那岐を手伝う)

「ちょっと、遠夜。そういうキラキラした瞳で見るのやめてくれない?」

ドスンドスンドスン。

「器と炭を持って参りました! 夕霧殿、ご確認を!」

「布都彦さん、ご苦労さま。またぎょうさん持ってきてくれはったなあ。おおきに」




「…………」

頭を抱えて座り込む将軍をよそに、狗奴の兵たちまでが落ち着かず、バタバタと走り回っている。

そのうちの1人が、彼の横で足を止めた。

「忍人様、どうかしたのか?」

顔を上げると、心配そうに見つめる狗奴の少年。

「足往」

「具合が悪いのなら、遠夜を呼んでくるか?」

「いや、不要だ」

忍人は立ち上がりながら、足往の頭に軽く手を置く。

「でも、忍人様に何かあったら、姫様……じゃなくて陛下が心配する」

「原因を作っているのは陛下だ」

「???」

ふうっとため息をつくと、「何でもない」と忍人は背を向けた。

気のせいか、後ろ姿にどことなく哀愁が漂っている。

「忍人様……まさか姫様とうまくいってないのかな」

濃い藍色の上着を見送りながら、足往はつぶやいた。




その夜。

橿原宮の奥深く。

国王夫妻の私室で、遅い夕食を終えた千尋と忍人は差し向かいで座っていた。

華奢な手が舞うように豆茶をいれるのを眺めながら、

「……千尋」

と思い切って呼びかける。

春に婚礼を挙げたばかりの新妻は手を止め、

「何ですか、忍人さん」

と、輝くように微笑んだ。




「…………」

「忍人さん?」

「……いや……何でもない」

「本当に?」

「……ああ」

「……ならいいんですけど。はい、お茶をどうぞ」

「すまない」

多忙を極める女王と、軍のトップにいる大将軍が夫婦らしい時間を持てるのは一日のうちでもほんの数時間。

その貴重な時間に波風を立てることもないだろう。

忍人は妻のいれた茶をすすりながら、

(千尋が望むのなら……そうさせるべきなのか)

と、ひそかにため息をついた。




……が。

予想以上だった。

スケールといい、参加人数といい……。




「忍人さん、お誕生日おめでとうございます!!」

立ち上がって祝いを言った者の数、約50名。

12月21日の忍人の誕生日は、空前の規模で祝われることとなってしまった。