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2人の白虎 ( 4 / 4 )

 



いつまでも尽きない話に、2組は遠くない再会を約束して別れた。

帰り道。

望美が譲にポツリと話し掛ける。

「私は……譲くんがいてくれて本当によかった。あの世界に一人で放り出されたら、どうしていいか分からなかったもの。私が私のままでいられたのも、譲くんのおかげだよ」

譲は、望美の手を取って微笑んだ。

「高倉さんの時代には、星の一族がちゃんと役目を果たしていたようですから…。でも、先輩を一人にしなくて済んで、俺もよかったです。ある日突然先輩が目の前から消えたりしたら……俺は耐えられませんから」

「もし、あのとき京に行かなかったら、どうなってたかな」

「先輩を兄さんに取られてましたよ」

「もう!」

望美がつないだ手を振り回す。

「私と将臣くんは何もないんだって、何回言ったらわかるの?」

ふくれる望美を、譲は優しく見つめた。

「俺と先輩も何もなかったですよ。すべてが、あの出来事で変わったんです。俺はやっぱり……感謝すべきなのかな」




いきなり望美の顔色が変わった。

ぴたっと譲に抱きつき、背中に手を回す。

「……感謝なんかしなくていいよ。譲くんはとっても辛い思いをしたんだし。あんなところ、行かないで済むなら、そのほうがよかった…」

何かを確かめるように、背中をさする。

「…先輩。そのときの俺も言ったかもしれませんが、あなたを……苦しめてしまったことを謝ります」

望美は無言で首を左右に振った。

腕の中で冷たくなっていった譲。

面影を求めてさまよったあまりに辛い日々。

いつしか、涙が幾筋も流れ出す。



「先輩、泣かないで」

最初は指で、次に唇で、譲が涙を拭う。

「もう……絶対私を一人にしないで。ずっと私のそばにいて」

肩を震わせる望美を腕の中にしっかりと抱き締めると、譲は力強い声で言った。

「約束します」

望美が笑顔を取り戻すまで、2つの影は寄り添ったままだった。


* * *


「幸鷹さん、何を考えてるんですか?」

花梨に顔を覗き込まれて、幸鷹は自分が黙り込んでいたことに気づいた。

「ああ……すみません。さすがにいろいろと考えてしまいますね」

軽く微笑みながら花梨に答える。

「私の記憶がもっと早く戻っていれば、有川くんほどではないにしろ、あなたの力になれたのに…とか」

「そんなことありません!」

花梨はきっぱり言いきった。

「それは……こうして自分の世界に一緒に戻ってこられたのはうれしいけれど、私は幸鷹さんが同じ世界の人じゃなくても……好きでした! 記憶が戻らなくても、やっぱりそばにいたいと思ったはずです」

「……京に居残ることになっても…?」

「はい」

しばらく、花梨の顔を無言で見つめると、幸鷹はふっと苦笑した。




「…どうやら、私はあまり自分に自信がなかったようですね」

「え?」

その問いには答えず、しばらく歩くとゆっくりと話し出す。

「……あなたが……私を選んでくださったのは……やはり、同じ世界の人間だからなのだろうと……。一緒に帰れるからこそ、あなたは迷わなかったのだろうと……」

「幸鷹さん…!」

幸鷹がにっこり笑う。

「ええ。間違っていました。今、はっきりとわかりましたよ」

ぱふんと、花梨が幸鷹の胸の中に飛び込んできた。

幸鷹は優しく受け止める。




「もう……どこがどう好きかわからないくらい……幸鷹さんの全部が好きなんですから……そんなこと言わないでください」

「ええ、もう言いません」

ふいっと花梨が顔を上げる。

「…でも…幸鷹さんはいいの? 私、もう神子でも何でもないただの女の子なのに、私なんかを選んで後悔してないの?」

「花梨」

花梨の髪をそっと梳きながら、幸鷹は答える。

「あなたこそ、自信がなさすぎますよ。あなたをどれだけ愛しているか、私はまだ伝えきれていないようですね」

「幸鷹さん…」

すっかり暮れた街の街路樹に身を隠すように、身体の向きを変えると、幸鷹は花梨に口づけた。




「こちらの世界に戻っていなければ、とうに私の妻になっていただくのですが」

「は…はい……」

真っ赤になった花梨がうなずく。

「あの京よりもこちらの世界の時の流れは穏やかです。どうかゆっくり大人になって、そして、私のもとにいらしてください」

「…はい、幸鷹さん」

今度はお互いの瞳をしっかりと見つめあい、ゆっくりと唇を寄せた。

一つになった影は、長い時間、離れることがなかった。




 

 
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