『遙かなる時空の中で3』

譲×望美

 

2012年文月・地




「譲くん、お誕生日おめでとう!」

あなたから渡された箱は、いかにも手作りという感じの少し不器用な包装。

「ありがとうございます」

「大したものじゃないけどね」

照れて笑う。

あなたが俺のことを考えてくれた時間、かけてくれた手間、全てが最高のプレゼントなんです、先輩。





「譲、お前、勇者すぎるだろ!」

「失礼なこと言うなよ。これは先輩が俺のために…て、手作りしてくれた…」

「包みを開けた途端に固まった奴がよく言うぜ」

「俺はこれを食べて死ぬんなら本望だ!」

「誕生日を命日にする気か?!」

「ちょっとそこの有川兄弟、顔貸してくれる?」






いったいいつの間に…。

指を飾る月長石の光に声をなくす。

照れながら笑うあなたの胸に飛び込んだ。

「先輩…!」

いつか本当にここで誓いを交わす日が来ても、きっと今日のことは忘れないだろう。

たくさんの絶望と哀しみの中、いつも隣にいてくれた輝き。

「大好きだよ、譲くん」






「あ。まだあった」

垣根と塀の間の小さな穴は、子供のころ使っていたお隣さんとの秘密の連絡口。

「庭の手入れの時に気付いてくれるかな?」

カードに「覚えてる?」と一言だけ書いて、プラスチックの箱に入れた。

翌朝あったのは、「覚えてますよ」のカードと小さな花束。






いつの間にか現れたペンダント。

先輩は時折それを思いつめた顔で見ている。

「どうしたんですか?」

「何でもないよ。もっとしっかりしなきゃって思ってただけ」

泣きそうな笑顔に心が痛む。

大丈夫です、あなたを貫く矢は俺が遮ります…とも言えず、悪夢に怯える自分を叱る。





2012年葉月・天




「夢の中のそれは本物そっくりで、でも手に取るとすっと消えてしまうの。

目が覚めてから、すごく悲しくて寂しくて。

ああ……もう会えないんだよね、譲くんの作った朝ご飯」

「先輩! 俺、明日からでも作りに行きます!」

「もうとっとと結婚したらどうなんだよ、お前ら」





「清盛さんって、どうして青年の姿でこっちの世界に現れたのかな」

「やはり先輩受けを狙ったんじゃないでしょうか(真顔)」

「俺としては、あの姿になれるなら向こうでもやっとけと言いたかったぜ!

チョウチョで復活した時は、尼御前とかマジ苦笑いだったからな」






「あの白い空間にいた半年って、私、歳を取ってないんだよね」

「…そうですね、多分」

「だったら譲くん、私たち同い年だよ! もう歳の差なんて気にしな…」

ギュッと抱きしめられて言葉が途切れる。

「そんなものとっくに気にしてません。ここにあなたがいてくれるなら」






「ああいう服着といて、『見たでしょ? エッチ!』とか言うのがわからん」

「兄さん、それ、オヤジの発言」

「けどあの格好で戦うんだろ?」

「大丈夫」

「へ?」

「白龍の加護で見えないようになってるんだ」

「な?! 白龍、お前明らかに力の使いどころ間違えてるぞ!」





「白龍! 八葉から娯楽を奪うな!」

「私は神子の願いを叶えているだけだよ」

「兄さんの寝言はともかく、そのためにどのくらいの力を振り分けてるんだ? 白龍」

「怨霊を2回倒せるくらい?」

「うわ、スカートなきゃ楽勝じゃねえかよ!」

「五行が整う日は遠そうだな…」




うつる

九郎「望美に続いて譲も風邪か」

弁慶「少し妬けるな」

景時「まあ、あの二人はしょうがないよね~」

ヒノエ「姫君が風邪ひいてるときくらい控えろよ、譲」

敦盛「ひ、ヒノエ、譲は看病を」

白龍「昨日も『きす』していたよ」

リズ「うむ」

将臣「なんで知ってるんだ、あんたら」





<幼なじみ>

「望美ちゃん」

「生きてるか? 望美」

「譲くん、将臣くん? だめだよ、風邪うつるよ」

「いつも一緒なんだから、うつるときはうつるさ」

「人にうつすと治るんでしょ? 僕にうつしていいよ」

「ううん、このプリン食べて治す! お見舞いありがとう!」

「「///」」





2012年葉月・地




あなたが背負っているものを少しでも軽くしたくて。

取りに行ったお守りはひどくあなたを傷つけてしまった。

でも、流れ矢から守ってくれたよね?

「死ぬ夢」はもう消えたんだよね?

ぎこちない笑顔が不安をかきたてる。

譲くん、早く帰ろう。

あなたが明るく笑えるあの世界に。






ふわりと舞い上がった光は、仲間の待つ森へと帰って行く。

「ありがとう、譲くん」

厨に蛍が迷い込んでいる…と知らせに来たのは先輩だった。

二人がかりで何とか外に追い出し、見送る。

「あの子も素敵な恋人、見つかるといいね」

「そうですね」

つないだ手をそっと握り、微笑んだ。






「今日もだめだった…」

自室で望美はうなだれる。

「私、本当に譲くんのこと好きなんだよ?」

「先輩、俺に気を遣う必要ないですから」

譲の気持ちに気づかずにいた日々が長すぎて、何度告白しても信じてもらえない。

「めげない! 明日も頑張る!」

隣家をキッと睨んで再度決意。






子供のころ、浜辺で先輩が作った砂の城(らしきもの)を兄さんがふざけて壊そうとした。

止めに入った俺の頭を兄さんの足が直撃して、見事にダウン。

二人が必死で介抱するうち、満ちてきた潮が城をさらってしまったけれど…。

何だか少し心が温かくなったのを覚えている。