『遙かなる時空の中で3』

譲×望美

 

2012年水無月・天




実際の戦には正義も悪もなく、

むしろ一族を必死で守ろうとする正義のぶつかりあいなのだと思う。

俺が戦う理由もただひとつ。

たとえ誰に非難されようと構わない。

正義なんていらない。

あの人を守るためなら、俺は全身を闇に染めることだって厭わないから。






「この馬、私のこと馬鹿にしてるよ」

「気のせいですよ」

落馬の後、先輩と俺は押し問答していた。

「なんだ、望美はまだ乗れないのか? なら俺と一緒に」

「九郎さん、先輩は一人で乗れるようになりたいんです!ね?」

「うん…」

同じ申し出をしたそうな他の八葉もしっかり牽制。




祈り

「さあ、引けよ」

「ババじゃありませんように…」

「よし! またひっかかったな」

「せっかくお祈りしたのに~! 私が神子とか絶対ウソだよ!」

「神子、ごめんなさい」

「え、いや、白龍のせいじゃ…」

「先輩、発言に気をつけてください。兄さん、先輩に意地悪しすぎだろ!」






もしも確実に効く毒があったら、俺は誰に飲ませるだろう。

清盛? 還内府?

いや、誰に飲ませてもあなたは悲しむだろう。

少なくとも今くらいには。

「譲くん! 本当にごめんなさい! 死なないでーっ!」

俺はあなたの料理を食べ慣れているから、大丈夫ですよ、先輩。

多分…。





2012年水無月・地




矢の手入れをする譲くんに、思わず近寄る。

「譲くんも指が長いね。やっぱり似るんだな~」

「そうですか?」

「ほら、大きい手でよく頭をぐしゃぐしゃやられたじゃない」

「……先輩、兄さんはきっと元気でいますから」

「うん…」

こぼれた涙を、長くて温かい指が拭ってくれた。




忍ぶ

「譲のは忍ぶ恋なんかじゃないね」

「どういう意味だ、ヒノエ」

「姫君以外はみんな知ってるだろ」

「それは!」

「むしろ恋心を告げたオレのほうが」

「無視されてるな」

「何!?」

「やるか!」

「将臣殿、歳が近いせいか二人は仲がよいな」

「敦盛、ありゃ別に仲がいいわけじゃ」




三人組

愛する人と信じる人。

決して使い分けじゃなく。

「今度は何で揉めたんだ?」

「私が一方的に怒ってるんだけど」

「んなの聞く前からわかる」

「将臣くん、ひどい!」

信じているからこそ何でも話せる。

「譲を呼んだから仲直りしろよ」

「…うん」

大好きな、かけがえのない存在。





2012年文月・天


掴む


先輩の手を夢中で掴んで、走り出していた。

岩陰を見つけ、彼女を胸に引き寄せて隠れる。

敵を前にすると、どれだけ密着していても何も感じなくなる。

ただあなたを守りたくて。

「先輩、まだ走れますか?」

「うん!」

温かい手をもう一度掴むと俺は再び戦場に飛び出した。




心競べ

俺がケガをしたと聞いて、先輩が真っ青な顔で飛んできた。

「譲くん、ごめんなさい!」

「どうしたんですか?」

「今朝、意地張ってケンカしたままだったから、本心じゃないこと言ったままだったから」

「そんなこと」

「私、譲くんが大好きだからね! どんな時も!」

「…!」

*心競べ:意地を張り合うこと






あなたにはいつも笑っていてほしい。でも、俺だけに微笑んでほしい。

誰からも慕われるあなたが好きだ。でも、俺だけのものにしたい。

あなたを悲しませたりしたくない。でも、俺のことは覚えていてほしい…。

真逆の想いはどちらも本心。

闇を鏡に封じ込め、今日もあなたを守る。




拗ねる


「バイト先の先輩にいきなり連れてかれたんだ」

「俺も部の連中と急に見ることになって。でももう一度見ても…」

「一緒に行くはずの映画に先に行ったから怒ってるんじゃないの!

昨日うちの前を歩きながら二人で真犯人の名前を大声で言ってたから!!」

「「…あ」」