『遙かなる時空の中で2』
幸鷹×花梨
2012年水無月・天
意識
女性とみれば口説きにかかるあの海賊の言動など、気にする必要もないと思っていたが、
言葉に、眼差しに今まで見たことのない真剣さが閃くのに気づいた。
あのような幼げな少女に対して、まさか…。
しかし何より腑に落ちないのは、それを目にするたびにざわめく自分の心だ。
末期
胸がキリキリと痛む。
頬の熱さも、手の震えもコントロールできない。
思っていることの半分も言えなくて、すごくもどかしいのに、ただ隣にいるだけで心が温かくなる。
私の挙動不審の理由を知っても、レンズの奥の瞳は優しいままだろうか。
悶々と悩むうちに空が白み始めた。
言い訳
「物騒な京を一人で歩かせるわけにはいかず」
翡翠「ほお」
「神子殿の話される異世界には学ぶべきことも多く」
勝真「なるほど」
「これほど京のために尽くした方を、むざむざ天に昇らせるわけには」
イサト「要は花梨に惚れたから一緒に帰るんだろ?」
「…申し訳ありません」
切っ先
冷たい言葉は刃物の切っ先のように心を切り裂く。
信じてもらえない、わかってもらえない辛さに胸の奥が重く冷えていく。
仕方ないんだ、と握りしめた手に、大きな手が重ねられた。
「この先は道が悪いですから」
手を引いて先を歩く幸鷹さんの背中が、少し滲んで見えた。
2012年水無月・地
初
幸鷹さんが初めて「神子殿」と呼んでくれたとき、
認められたことよりも、私を信じてくれたことがうれしかった。
神泉苑での決戦の後、今度は少しためらいながら「花梨さん」と呼んでくれた。
それは、これからも一緒にいてくれる証。
幸鷹さんから私への最高の贈り物だった。
試す
共に京を巡ったのは、決して好意からだけではなかった。
苦境に立ったときも、あえて彼女の出方を観察することがあった。
なのに……
「一緒にいてもらえて、本当にうれしかったです」
その明るい笑顔に、今、心から報いたい。
自分が八葉であるかどうかなど、もはや関係なかった。
噂
「和仁さまについて、気になる噂があるのです」
八葉が集う場で、幸鷹が口を開いた。
「ほう、別当殿でも噂を気にするのかい」
からかうように言う翡翠を、キッと睨みつける。
「噂にも一片の真実はあります」
「私は別当殿の恋の噂を聞いたのだが」
「事実無根です!」
「…なるほど」
誓
「今まで辛い思いをさせた分も、守らせていただきたいのです」
幸鷹さんが言った。
京のことを真剣に考えるからこそ、最後まで信じてくれなかった人。
返事より先に涙がポロポロ零れ出す。
「神子殿!」
大きな袖が私を包み込んだ。
「あなたにもう二度とこんな涙は流させません」
2012年文月・天
響
「幸鷹さん、翡翠さん!」
凛とした声が響く。
怨霊と対峙していた白虎は、走ってくる花梨の姿を見て微笑んだ。
「やれやれ、味気ない怨霊退治に神子殿が花を添えてくれそうだ」
「今回に関しては同感です」
「しかし、なぜ君の名前を先に呼ぶのかな」
「…天ですから」
「ほう…?」
約束
「一人では出かけない約束でしたよね」
「ごめんなさい!」
「紫姫を心配させるのは感心しません」
「反省します!」
「仕方ない。今日のところは紫姫と、指きりで約束でもしていただきましょうか」
「はい」
「さあ、紫姫」
「…あの…幸鷹殿、指きり…とは?」
「…え?」
「ん?」
好奇心
「2人が直接話せばいいのに」
「帝と院ともなればお立場が」
幸鷹が花梨に京の現状を説明していると、翡翠が笑いだした。
「翡翠殿?」
「神子殿を見ていると、伊予に来たころの君を思い出すね」
「!」
「翡翠さん、そのお話詳しく聞きたいんですが」
「神子殿!」
「喜んで」
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