『遙かなる時空の中で』

鷹通×あかね

 

2012年長月・天




何気なく触れた神子殿の頬。

自分のそれとはあまりに違う感触に、しばし言葉を失う。

「鷹通さん?」

「し、失礼しました。女性に軽々しく触れるなど」

「ついでに右目にゴミが入ってないか見てくれませんか? チクチク痛くて」

「!」

あ、飽くまでこれは八葉としての使命だから。






「ビクともしません。完全に閉じ込められたようです」

「鬼の仕業ですか?」

「わかりません。が、私が必ず神子殿をお守りいたします!」

「鷹通さん…///」

【扉】

「ったく、中の様子丸聞こえだぜ」

「天真、この扉、開けてよいものだろうか…」

「何赤くなってんだよ、頼久」






「神子殿の世界では女性の外出も自由だと聞くが、その割に男慣れしていないね」

「友雅殿、失礼ですよ」

「天真や詩紋も手を出す様子がないし」

「友雅殿!」

「私は寿いでいるのだよ、鷹通。おかげで君にも可能性がある」

「私はちゃんと自分で…な、何を言わせるのですっ!?」






「鷹通、目が赤いよ。また徹夜かい」

「神子殿と京を回ることが増えたため、治部省の仕事が夜に回りがちで」

「…暁ばかり憂きものはなし、か」

「確かに、夜がもっと長ければ仕事も捗りますね」

深いため息。

「早く後朝の意味で使ってほしいものだが」

「と、友雅殿!///」





2012年長月・地


眼鏡


「コンタクト…ですか?」

「ええ、天真殿に便利だからと勧められたのですが」

「確かにスポーツのときとか便利だけど…」

「?」

「…眼鏡を外した顔を知ってるのは私だけでいたいな…なんて」

「あかねさん」

鷹通は眼鏡を外すと、赤い顔でうつむくあかねにそっと口付けた。






鬼によって砕かれ、洛中に散った心のかけらは、なくしたままでも生きていける。

けれどあなたが一つ一つ集め、心に戻してくださった「想い」は、

もう「かけら」ではないのです。

神子殿というまぶしい光をまとい、人を恋う温かさと切なさで、

今、私の胸を満たしています。




にやり

「友雅殿、私の仕事をご覧になるのは構わないですが、なぜ微笑まれて?」

「おや、私は笑っていたかな?」

「はい、何やら楽しげに」

「ああ、それはきっと神子殿が」

「え?」

「鷹通、手が留守になっているようだが」

「あ、は、はい。…ですからなぜそのように笑われて…」






蛍を見せたいと貴船川に誘ってくれた鷹通さん。

つないだ手は私が足を滑らせないため。

優しくて穏やかな笑顔が、明滅する光に照らし出される。

私が神子にならなければ、この温かい手を知ることは決してなかっただろう。

蛍火のように儚い縁に、心の中でそっと感謝する。





2012年神無月・天




「ごめんなさい!」

真っ赤になって走り出す。

鷹通さんのやさしさを勘違いして、好意をもってくれると信じ込んで。

「神子殿!」

引きとめられてうつむくと

「八葉としてのふるまいに他意はありません。けれどそれとは別に、私はあなたをお慕いしています」

声が…降ってきた。






「うわ、フワフワ! かわいい~!」

鷹通が藤姫に連れてきた子猫は、あかねの心も掴んだようだった。

「やるね、鷹通」

「いえ、ただ、子猫といる神子殿を拝見していると、こちらの心も温かくなりますね」

そう微笑む鷹通の表情が誰よりも柔らかいことを、本人に告げるべきか。






友雅「私は何でも小器用にこなせてしまうので、物事に打ち込む情熱というのを持てなくてね」

あかね「タモリさんタイプですね! 

普通の人が興味をもたないような『地形』とか『牛車の種類』とかを研究してみてはどうでしょう?

 あと、モノマネ?」

天真「あかね、やめとけ」





鷹通「私は友雅殿のようにいろいろな才に恵まれているわけではありません。

あるとしたら、成し遂げるまで諦めずに努力する才くらいで…」

あかね「堺正章! 『かくし芸大会』で活躍する堺正章さんタイプだよね、天真くん!」

天真「高2のお前が持ってていいのか、そんな知識」




団子

あかねの作った団子を口に入れた途端、鷹通は混乱した。

(こ、これはものすごく不味い! いやきっとこれが異世界風なのだ! 

私は八葉、美味しいと言わなければ! 自然に、にっこり微笑みながら!)

「あかねちゃん、砂糖と塩間違えたでしょ?」

詩紋の声が鷹通を救った。