Merry merry Christmas
京都・四条河原町
「鷹通さん、お待たせしました!」
「こんにちは、あかねさん」
「すごい人出ですね。さすがクリスマスイブ!」
「こちらの世界では、年末年始の行事に加えてこのような祭りがあるのですね」
「慌ただしいですよね。このクリスマスのディスプレイも、26日になった途端にお正月飾りに取り替えるんですよ」
「……商いをされる方々は、大変なのですね」
「活気があって楽しい、とも言います!」
「あかねさんは、クリスマスと正月はどちらがお好きですか?」
「え~……それはやっぱり、ロマンチックな分、クリスマスのほうが好きでしたけど……」
「けど?」
「……今年からは、どっちもそんなに大切じゃなくなりました」
「え?」
「……一年で一番大切な日は、鷹通さんのお誕生日になりましたから」
「!!」
「! た、鷹通さん、大丈夫ですか? 顔が……」
「…………申し訳ありません。もう少し外を歩いてもよろしいでしょうか。急に……何やら暑くなりましたので」
* * *
京・四条の邸
「庭にいらしたのですね、神子殿」
「幸鷹さん! 何かご用ですか?」
「最終決戦も近いので、いま一度さまざまな事項を確認できればと」
「はい、そうですね。ちゃんと考えなきゃ」
「……それは……柊ですか?」
「あ! あの、ちょっと部屋に飾ってみたくて、一枝折っちゃったんですけど……」
「……!」
「…………」
「……今日は……クリスマスイブ、ですか」
「ご、ごめんなさい! 決戦前に不謹慎ですよね、私!」
「そのようなことはありません。……懐かしいですね」
「幸鷹さんもお祝いしていたんですか?」
「ええ。ヨーロッパでは一番大きな行事ですから」
「わあ~! きれいだろうな、ヨーロッパのクリスマス」
「……今夜、かなり遅くなってしまうと思いますが」
「?」
「何か甘いものを持って伺いましょう。ご一緒に、少しだけお祝いができれば」
「本当ですか?!」
「はい。その柊を局に飾っておいていただけますか?」
「はいっ!! どうしよう、すごく楽しみ!!」
「あなたのその笑顔が、私には何よりのクリスマスプレゼントです」
「え?」
「いえ、何でも。では、今夜」
「はい! お待ちしてます!」
* * *
鎌倉・極楽寺そば
「先輩! どうしたんですか、その木?」
「あ、譲くん! すごいでしょ! 樅の木だよ」
「すごいですけど、重いでしょう? 俺が持ちますから」
「え? あ、ごめん」
「ここまでずっとひきずってきたんですか? ですよね。道に跡がついてるし」
「譲くん、肩に担げるんだ……。なんかズルい。昔は私のほうが力があったのに」
「何年前の話をしてるんですか。で、これはどこで?」
「商店街の人が、一本余ってるからってくれたの」
「まったく、女の子にこんな大きな物……!」
「あ、ちゃんと心配してくれたんだよ! でも、私が大丈夫って言ったから」
「……。先輩、そういうときは俺を呼んでください。必ず駆けつけますから」
「でも、譲くん、受験生なのに」
「そのくらいのことで落ちたりしません」
「余裕だな~。でも楽しみ! 同じ高校に通えるようになるんだもんね」
「……今も兄さんが一緒でしょう?」
「あんなにギリギリに家を出てたら、私の足じゃ毎朝遅刻だよ!」
「……そうなんですか?」
「譲くんと一緒なら絶対遅刻しないから、頼りにしてるよ」
「……はい」
「来年は全員高校生で、楽しいクリスマスを迎えられるよね!」
「そうなったら本当に……いいですね」
* * *
熊野・天鳥船そば
「二ノ姫! いったい何をやっている?!」
「あ、うわ、忍人さ……!」
「!!」
「!?!」
「痛(つ)……」
「お、忍人さん、大丈夫ですかっ?!」
「……君こそ、ケガはないのか」
「私は大丈夫です! すみません! ひじが当たっちゃいました?」
「これくらい問題ない。それより、なぜ木に登っていたのか、理由を説明してもらおうか」
「あ、あの、一枝取ってリースを作ろうと思って……」
「リース?」
「あ、あの……私が暮らしていた世界では、今日と明日は『クリスマス』というお祝いなんです。そのときに、常盤木(ときわぎ)の枝で輪を作って飾るのが習慣で……」
「…………」
「ご、ごめんなさい! け、軽率でした!! 大将軍としての自覚も足りなくて、国を統べる資質も……!」
「どの枝が欲しいんだ」
「……え?」
「俺が取ってくる。君が指示を出せ」
「…は、はい……」
「これでいいのか」
「……ありがとうございます」
「……よほど大事なことなのだろう?」
「え?」
「君にとって、その祝いは。そういう顔をしていた」
「……!」
「とにかく、今後は一人で木に登る前に俺に声を掛けてくれ」
「お、忍人さん、お茶を、お茶をごちそうさせてください!! あ、あの、クリスマスのお祝いに、私の部屋で……!!」
「……それも大事なことなのか?」
「はいっ!!」
「……わかった。少し遅くなると思うが」
「何時まででも待っていますから。楽しみに……待ってますから」
「……わかった……」
どの世界にいる天白虎も、そして地玄武も、みんなみんな幸せなクリスマスが迎えられますように。
I wish you a merry Christmas!
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