12分間の逢瀬

 



10月4日23時58分 望美の携帯に着信




「先輩、夜分遅くにすみません。でも、最初にお祝いを言いたくて」

「ありがとう、譲くん! もしかして、電話くれるかなあって期待してた」

「よかった。あの、よければ窓を開けてもらえますか?」

「窓?」

「あ、ありがとうございます」

「わあ、あのクリスマスの前を思い出すね。
将臣くんと二人でそうやってお庭に立ってた……」

「今日は、兄さんには遠慮してもらいました。あ、そろそろですね」

「あ~あ、せっかく3カ月間、同い年だったのに。私だけまた歳取っちゃうんだなあ」

「俺が来年また追いつきますから。3、2、1、0。
お誕生日おめでとうございます、…………望美さん」

「!!! あ、ありがとう、譲くん……! 
私、私、なんだか今までで一番うれしい誕生日かも…………………」

「先輩?」

「戻るの早い!!」

「え、でも、何か様子が……」

「ちょっと感激して泣いちゃっただけ! もう~、お誕生日祝いに、もう一度呼んで」

「え? あ、はい。わかりました。……お誕生日おめでとうございます、望美さん」

「ありがとう、譲くん!」

「来年も、こうやってあなたの誕生日を祝わせてもらえますか?」

「……来年……は、譲くんが受験だから、しょうがないよね」

「え?」

「再来年は……その……できれば…………」

「ああ、はい。そうですね。
できれば電話じゃなくて、先輩の横でお祝いを言えるようになりたいな」

「……先輩じゃなくて」

「望美さんの横で」

「うん」

「さあ、冷えますから、そろそろ窓を閉めてください」

「え、そんな! 私が譲くんを見送るよ」

「でも」

「今日は私の誕生日でしょ? 私に決めさせて」

「……あなたには、かなわないな。じゃあ、家に戻ります。
あ、部活を休んだんで、朝、一緒に登校してもいいですか?」

「本当?! うわ~、すごくうれしい! 
も、もちろん部活が大切なのはわかってるよ! 
でも、一緒にいられるのがすごくうれしい!」

「そんなに喜んでもらえるなら、部長にシブい顔された甲斐がありました。
じゃあ、先輩、寝坊はしないでくださいよ」

「わかった。頑張るよ」

「俺の姿が見えなくなったら、すぐに窓を閉めること。いいですね」

「うん、約束」

「じゃあ、おやすみなさい。
今日1日が、先輩……望美さんにとって最高の誕生日になりますように」

「もうかなりなりかけてるよ! おやすみなさい! 本当にありがとう!」

「ええと……あなたが……大好きです」

「私も譲くんが大好き!」

「せ、先輩、声が大きい!」

「あ、ご、ごめん」

「おやすみなさい」

「おやすみなさい」




10月5日00時10分 通話終了





 

 
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